新明治仁侠伝 公演情報 劇団め組「新明治仁侠伝」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    時代に殉じた男たちだけれど・・・
    「め組」初見です。「任侠伝」といっても博徒の話ではない。悲劇的な時代劇の場合、優れた脚本・演出だと俳優が好演すれば否応なく感情が高まって泣くまいと思っても泣けてくるものなのだが、残念ながら私はこの芝居ではワクワクもできなかったし、泣けなかった。歴史ものは俳優のルックスがカッコ良いだけでは感動できない。
    観終わってスッキリできなかった。これは自分の中ではかなりのマイナス点。

    ネタバレBOX

    「徳川への郷愁、明治への恨み」というのが平板に語られるだけで、士族側の描写が希薄。廓の主人になって大久保利通(酒井尊之)暗殺を企てる利通の庶子・義明(新宮乙矢)の人物像に魅力を感じないのが私にとっては最大の難点だった。利己的で私憤で動いているせいか見ていて同情できない。父の利通や使用人の左助が斬られて目が覚めたと思いきや、「もう利用価値がない」と言って仲間に刺客を差し向ける心境も理解できない。義明が操ろうとする徳川慶喜のご落胤、狂四郎(入木純一)も名君タイプとは言えず、眠狂四郎を真似たようなニヒリストで、よくわからない男だ。
    幕末は「蔭間茶屋」が繁盛したが、義明も蔭間だったことが明かされ、義明と狂四郎の間にそれを匂わせるものがあるようだ。
    近年、伊藤博文や大久保利通については従来とは違う角度から政治手腕や人物像を再評価する一般向けの書もいくつか出ており、本作でもどのように表現されているか期待したが、そういう解釈の工夫はわずかながらも見られなかったのが残念。「新政府でまだまだやらねばならぬことがある」と通りいっぺんのことを繰り返すだけでなんら政治ヴィジョンを語らないから(現代の政治家のよう?)、士族側も不満を解消できないはずだ(笑)。あの世から西郷(渡辺城太郎)や龍馬(藤原習作)が常識的に解説する場面も多く、劇的に盛り上がらないこと甚だしい。渡辺の滑舌が悪いのも気になった。
    小鉄(井上真一)が「けりをつけなきゃならねぇ」と狂四郎と切り結ぶのもよく意味がわからない。その前の段階で納得していたから結婚も決めたのではないのか。それを翻意する必然性が劇中で感じられないので唐突な印象を受けた。
    この芝居の中で一番面白かったのは岩倉具視(藤原習作の2役)。幕末に貧乏公家だった男の本音が出ており、スイスイと危難をくぐって生き延びていく男のしたたかさが伝わってきた。岩倉は肖像がお札にもなったせいか、かつては公にあまり悪く言えない雰囲気があったようだが、亡き母が戦前の京・大阪に伝わっていた岩倉具視像について話してくれたのはちょうどこんな感じだったのでふき出してしまった。難点は「あんさん」のイントネーションが一定せず台詞によって違うこと。京阪言葉の語尾の音下がりが不安定。
    評判に聞いていたほど殺陣も巧いと思えず、ぞくぞくするような緊迫感がなく、いち、に、さんとテをつけているのが見てとれてしまうのが興ざめ。特に狂四郎の入木はかたちにこだわっている段階のようで、技量がいまひとつ、斬られ役との息が合っていないので、剣が強く見えない。
    長刀で切腹しようとする場面が2箇所ほどあったのも考証上違和感があった。明治でもこういう場合は脇差(短刀)でないと。
    野村貴浩の勝海舟には存在感があり、好演。それに対する旧幕派の若者たちの魅力が薄過ぎた。晋之介(秋本一樹)は薩摩っぽらしさがあって良かった。中性的な牡丹(菅原貴志)は面白いキャラクター。本来は太鼓もちのような役柄なのだろうが、扮装は太鼓もちではない。鼓を打つ場面が、武士の嗜みのはずなのにまったく鼓の音が出ていないのにはガッカリ。生で打つなら音がきちんと出るようになってから舞台で使うべき。時代劇はこういう小道具が重要なので、疎かに扱ってほしくない。
    女性陣は椿(武田久美子)と楓(高橋佐織)が過去を引きずる守旧派で、小菊(松本具子)と、椿の妹・茜(稲垣納里子)が明るい現実派。徳川の世に幻想を持たない現実派の2人の台詞には説得力があった。武田は滑舌が悪い。
    音楽で雰囲気を盛り上げようとするのが露骨で浮き上がり、芝居の力が足りないと感じた。やたら登場人物にピンスポットを当てる演出の多用もいただけない。ラスト・シーンで全員が並ぶと、本来ならグッと感情が高まるところだが、それまでにさんざんスポットを当ててきたうえ、人物描写が薄っぺらなので際立ってこない。
    女性にはかなり人気のある劇団のようだが、新派や新国劇で腰のすわった本格的な芝居を見慣れた大人向けではないなと感じた。

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    2010/08/06 05:52

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  • tetorapackさま

    コメントありがとうございます。tetoraさんのほうへ返信書かせていただきました。

    2010/08/09 05:02

    きゃるさん

    重厚なレビュー、しかと読ませていただきました。
    新派や新国劇で腰のすわった本格的な芝居を見慣れているきゃるさんには、今回は厳しいものに映ってしまったようですね。私も、まったく反論はありません。
    たしかに、新派や新国劇は、きゃるさんには足元にも及びませんが、私もコリッチ・デビューの以前、それなりに観てきましたが、きゃるさんのご指摘は的を射ているものと観察眼の鋭さに改めて驚かされました。

    >廓の主人になって大久保利通(酒井尊之)暗殺を企てる利通の庶子・義明(新宮乙矢)の人物像に魅力を感じないのが私にとっては最大の難点だった。利己的で私憤で動いているせいか見ていて同情できない。父の利通や使用人の左助が斬られて目が覚めたと思いきや、「もう利用価値がない」と言って仲間に刺客を差し向ける心境も理解できない。

    ここは、私も、「あれれ」と感じました。同時に、私は、今回のお芝居では、新宮くん演じた義明は、まさに「アンチテーゼ」だと感じました。自分のレビューにも書きましたが、「テーゼ」は元来の任侠であり、逆戻りしない時代を生き抜くことであり、晋之助であり小菊であったと。そう勝手に思ってスッキリ観られた次第です。

    >近年、伊藤博文や大久保利通については従来とは違う角度から政治手腕や人物像を再評価する一般向けの書もいくつか出ており、本作でもどのように表現されているか期待したが、そういう解釈の工夫はわずかながらも見られなかったのが残念。

    伊藤、大久保については、おっしゃる通りで、そんな立場からの論評を私もプレジデントとかも含め何冊か読んでいます。維新回天のこの時代は、誰か一人に焦点を当てても2時間の芝居に納めるのは大変なことで、硬派的な視点に立つと、この作品も表層的な点描の一面が全体として強くなっていたことは認められます。

    >あの世から西郷(渡辺城太郎)や龍馬(藤原習作)が常識的に解説する場面も多く、劇的に盛り上がらないこと甚だしい。渡辺の滑舌が悪いのも気になった。

    あらら。ここは私は楽しめました。特に龍馬の藤原習作が秀逸だった。覇気があり、龍馬っぽくて。西郷の渡辺も、私の観た回では、たしかに声が低いので小さな声や早口だと聞きとりにくい点もあったけど、雰囲気が出ていて、私は心地よかったです。この劇のテーゼを考えると、私はこの部分が必要で、また生きていたと思えたのですが(笑)。

    小鉄については、まったく同感。

    勝、晋之助、牡丹、岩倉についても、同感です。とくに岩倉は面白かった。それと、私は晋之助に惹かれちゃいました。演じ方も静かでカッコいいなと(笑)。男として、こういう面を持ちたいという自分の願望かも知れませんが(笑)。そう、任侠の意味について、「男気」ともいえるもので、秋本一樹くんの好演が印象に残った次第です。

    でもって、あの牡丹の鼓。あれは最低! この頃、世田谷パブリックで本格の鼓の技を観てしまった私としては耐えられないものでした。きゃるさんのおっしゃるように、あんなレベルでは、舞台に出してはいけませんよ。たとえ、士族くずれの廓の俄か下働きとしても、あの音は論外ですね。正直、あれは全く笑えず、少々、不愉快でした。

    2010/08/08 23:56

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