Ulster American 公演情報 本多劇場グループ「Ulster American」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    出演者が3人でセリフが膨大な海外の現代口語劇(原作:デイヴィッド・アイルランド、翻訳:小田島創志、演出:大澤遊)。

    劇場主でもある男性演出家(前田一世)の手配で、新進の若手女性劇作家(椙山さと美)が人気男性俳優(池田努)と初顔合わせ。彼は彼女の芝居に主演するのだ。明らかに男性2人が優位にある関係性だが女性は全く尻込みせず、全員が正面からぶつかり合う。

    役人物の思惑を細やかに踏まえつつ戯曲の要請(明確な意図)にも応える必要があり、臨機応変に柔軟に、でも結果的には緻密に組み立てる演技が求められるのではないか。俳優は大変だったろうと思う。

    胸襟を開き本音で語り合うことは美化されがちだが、他者を尊重し思いやる姿勢が不可欠なのだと改めて確認。誰かを傷つけるぐらいなら黙るべきだ。

    男性2人は「(戯曲には)歴史が大事」等とたびたび口にする。人間(の歴史)を軽々しくネタにして作品にし、食いぶちを稼いだり名声を得たりするクリエイターのなんと多いことか。私自身、このことには敏感でいたい。

    ※車椅子で伺い(私は自力で階段の上り下りができます)、劇場の方々に心尽くしの対応をしていただきました。今まで公共劇場しか経験していなかったけれど、本多劇場グループの小劇場公演なら安心して観劇できると思いました。付き添いの家族も助かっていました。本当にありがとうございました。

    ネタバレBOX

    シスジェンダー男性の演出家が酒に酔ったノリで「(性的マイノリティ)になりたい」と言う場面があった。マジョリティ側が口にすべきでない乱暴な発言で、役人物の不見識が露呈する。劇作家のアイルランドは今ホットな社会的課題を集められるだけ集めて、極端な口論に落とし込んで風刺をしているのかもしれない。彼の戯曲『サイプラス・アヴェニュー』を読んだ時も似た感触があった。

    ただ、この設定で性的マイノリティについて言及させる必要はあっただろうか。登場人物は全員シスジェンダーで、基本的に男女の対立を描いている。「性的マイノリティの話題」をネタとして盛り込んだだけではないか。私はあのセリフに戸惑ったし、「そんなこと言ったらダメ」と他の2人が突っ込まなかったことに不快感があった。性的マイノリティの観客は、セリフとはいえ垂れ流された暴言に傷ついたかもしれない。

    この点を手がかりに全体を振り返ってみると、作者のアイルランドこそ、人間をネタにして作品にしている張本人かもしれないと思い当たった。

    たとえば、狙いだろうとはいえオスカー俳優を道化に仕立てすぎだと感じたし、女性劇作家の実母を交通事故死させ、暴力の連鎖へと向かわせるラストは予測可能で安易とも言える。登場人物に散々軽々しいことをやらせておいて、最終的には全員を破滅させて放り出したのだ。登場人物は作者アイルランドのコマに過ぎず、英国とアイルランドの歴史も彼にとっては題材の一つなのだろう。

    つらつらと一方的に書き連ねてしまった。きっと私の勘違いや誤読はあると思う。あのセリフから、ここまで考えることができたことには、感謝している。
    改めて言葉にしておきたい。私は人間に優しい、思いやりのある作品が好きだし、それを観たいと思う。

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    2024/04/22 14:22

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