実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/04/12 (金) 14:00
座席1階
心の内外、つまり妄想と現実がクロスオーバーするような筋立て、演出で、舞台から目が離せない迫力ある作品だったが、なにせ後味が悪い。どよーんという重苦しい空気が劇場を包む。それだけ作品にインパクトがあるということだろうが。
父、息子、そして母という家族三部作の一つ。フロリアン・ゼレールの作品で、世界中で上演され映画化もされているという。今回の「母」のテーマはエンプティ・ネスト(空の巣)症候群。家庭の主婦として子どもたちを育て上げ、そればかりに力を注いだ果てに、子どもたちが巣立っていったときの空虚感に心が折れる。仕事ばかりで妻を省みず、さらに浮気までという夫の行状が追い打ちを掛ける。舞台は冒頭から、ほとんど正気ではない妻の状況が展開される。
最初からこのような追い詰められた状態なのだから、これがエスカレートしていけば破局は明白だ。仕事に浮気で忙しいが、そうはいっても妻に視線を少しは向けようとする夫が哀れにも思える。息子を溺愛し、息子の彼女にまで悪態をつく妻は醜悪だ。ラストシーンもさることながら、こうした場面場面にもはや、ため息をつくしかない。だが、そんな筋書きでも目が離せないのは、息をもつかせぬ緊迫感がずっと舞台に張り詰めたままだからだ。
そうした舞台を実現した若村麻由美の演技に拍手を送りたい。最初から最後まで彼女の独壇場である。お見事の一言に尽きる。
テーマはエンプティ・ネストだが、そこに至るまでに既に家庭には修復不能な大きなひびが入っている。息子は自立したいと考えていたようだが、母の溺愛にからめ捕られてしまって身動きが取れない。一直線に破局に向かう前に、何らかの救いの手はさしのべられなかったのか。やはり、後味が悪い。