天の秤 公演情報 風雷紡「天の秤」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    久々の風雷紡観劇。再演だったとの事。好評ゆえとすれば納得である。冒頭でよど号ハイジャック事件が題材と分かる。透明プラスティックの椅子二台を動かすだけの転換で、場面を淡々と構成。「楽園」の狭い舞台で感情が爆発するとダイレクトに波動を受ける。ハイジャック犯一人の他は、機長、副操縦士、CAのキャップと部下二名、行政官(大臣と政務次官)、キャップの先輩も行政サイドに居る、という人物構成で、事件解決に向かう人物たちの群像だ。乗客がゼロ、ハイジャック犯が一人(ここはやや気になったが)でも、この歴史的事件をうまく現代に浮かび上がらせ、観客に強い関心を持って事件を見据える事を促している。各場面が事態の進行と共に人間模様の簡潔な描写を兼ねて面白い。後半の展開のテンポも良い(程よく間を省いている)。

    ネタバレBOX

    改めてよく出来た作劇、テンポ感、照準の絞り方、広げ方がよく、蠱惑的な空気があったのだが、何故だろう?と考える。答えは見つからないが、やはりこの劇団の特徴である「左翼」の歴史に分け入ったドラマである点が一つ、考えられる。ハイジャック犯の役は一人で代表させている点では、ステロタイプを担わせ、グループメンバーそれぞれ背景の異なる個人の人生までは分け入ってない。が、理想を望む情熱と、打算の振れ幅を体現させ、観客目線では身近な存在として見る事を許している。
    もっとも、法を犯した者を絶対悪としがちな昨今の風潮では、予め悪人と見、韓国の金浦空港に騙して連れて来られた後に人質入れ替えにより平壌へ向かう算段が付いた時の犯人の浮かれた名調子、演説の軽薄さに「悪の烙印」を押させてもらって溜飲を下げた、といった感想があってもおかしくない。
    「悪」には両義性、多義性があり、ルールがそう決まってるから悪とされているに過ぎない悪もあれば、たとえ法に規定がなくとも倫理上はどう考えたって「悪」だろうという事もある。こういった題材はそれを考えさせる。
    旅客機の乗客の代わりに人質となった外務官僚のその後の顛末として、ある悲劇が冒頭とラストで僅かに紹介され、恐らく史実をなぞったものと思われるが、ドラマの中に意味的に取り込みづらい。単なる英雄譚で終わらせられなかった人生への大いなる謎。
    とは言え、よど号犯人たちのその後は決して「楽園」でのそれでは無かっただろう事と、波長として重なり合うものがある。

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    2024/04/02 08:59

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