実演鑑賞
満足度★★★★
いいへんじの『薬をもらいにいく薬』という作品にとても救われていたので、新作を待望していました。
一人のシンガーソングライターの路上ライブをきっかけに出会った二人。二人の間に芽生える気持ち、揺らいだ気持ちとは?「友達」と「友達じゃない」の間を行ったり来たりする二人、そんな二人を見つめる一人の心の様子が丁寧に描かれていく約80分。劇中歌が素晴らしすぎて、思わず落涙。今回もまたとてもやさしい戯曲であり、あたたかい演劇でした。そして、それはそうではない世界へのささやかな、しかし確かな抵抗であるとも感じました。「やさしい」や「あたたかい」という安心は、「かなしい」や「つめたい」という不安といつも共にあって、気持ちが追いつかず涙ばかりが流れる夜や、泣いたからといって清々しく迎えられるわけもない朝があって、そんな中で私たちは生きている。一人になりたい、人から離れたいという気持ちと、独りが怖い、誰かと寄り添いたいという気持ちが同じ心にあるということ。それでいいということ。いいへんじの演劇は、中島さんの戯曲はいつもそんなことを改めて、耳打ちするようなさりげなさとやさしさで教えてくれるようでもあります。それはなんだか、世界へのとりとめないお手紙でもあるようで、同時に丸くて丁寧な文字で同じだけ心をつかって綴られた"へんじ"でもあるようで。
世界の悲しさ、冷たさ、厳しさに目を凝らした上で、人と人がどうあれれば、そことたたかえるのか。武器じゃない、何かもっと確かで、もっと誇れるもので。そう願う自分を肯定してもらえたような劇体験でした。
人と人の隙間を糸や針をつかって縫うのではなく、マーブル色の色鉛筆で少しずつ色を変えながら塗っていくような。そういう繊細で、時間のかかることを見せてもらったような心持ち。人と人との間にはいつだって大きな川が流れていて、こちらと向こうの違いや差に戸惑うし、いつでも行き来ができるような橋を気安くかけることもためられる。それでもと、だったらと、てづくりのボートをそーっと出してくれるような。そんな演劇でした。私は千秋楽ラストチャンスに滑り込み、Bキャストの味と技を堪能しましたが、俳優さんの違いも込みで楽しめそう。トリプルキャストにも意義と魅力が宿る公演だと思いました。