実演鑑賞
満足度★★★★
原爆投下したアメリカの開発者たちの開発成功から現在に至る軌跡を描いたユニークなドラマである。作者は青森の高校演劇リーダーの畑澤誠吾。演出はチョコレートケーキの日澤雄介である。ともにこういう素材はよく知っていてまとまりは良い。2時間15分。
戯曲はほぼ十年前に劇団昴で公演したものを演出者、キャストも変えての再演である。今週見た「キラージョー」(よくできている脚本だ)も五年ほど前に俳小で上演したものを、演出者シライケイタが引き取って温泉ドラゴンで再演した。共にまずは成功だ。
小劇場で惜しまれながら上演のママ放っておかれている戯曲は少なくない(それほど多くもないが)。今度の上演の主催はネットチケット販売のCorichである。面白いところに着眼した興行だが、ただただその後の成功を祈る。過去にも同じ企画に手を出した団体や劇団は少なくないがほとんどが失敗している。大きく見て企画は良いのだが作品選択が続かない、今回の満席の入りでで甘く見ないように、と釘をさした上で。
こういう社会問題劇の戯曲を扱うのは難しい。ドラマであるから、彩りとしては「教訓劇」や「扇動劇」になりやすい。ともに昭和の新劇がこだわって失敗し、今も少なからずその尾を引きずっている分野である。観客の多くは見ていて閉口してきた。
昭和が終わって、チョコレートケーキは幾つかの作品で同じ危うさを内包している素材を現代の観客が見る現代劇として観客に提供し新劇の轍を踏まず、成功させてきた。その演出家日澤雄介の演出。この作でも、チョコレートケーキの公演なら、見逃しておかない日本側の責任を棚上げしている(まぁ自虐趣味に落ちていないところはよしとしなければならないが)ところはもう一つ工夫の欲しいところだ。この素材は「教訓」にはなるが、この國ではこの話で「扇動」されやすい時代になっていることも忘れてはなるまい。扇動劇の側にいた木下順二が終始、作品からは扇動を排除し続けたところも、昭和の一面としてで忘れてはなるまい。