走れ!弥次喜多 公演情報 神奈川県演劇連盟「走れ!弥次喜多」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     オープニング、おどろおどろしい音楽と共に舞台上には閻魔の審判御前の有様が表現される。裁かれているのはお七。有名な八百屋お七である。
     さて、八百屋お七と弥次喜多? どこでどのように繋がるの? それは観てのお楽しみ。
    華4つ☆。

    ネタバレBOX


     神奈川県演劇連盟合同公演である。HIKARIは2階にある小さな空間であるが、こちらは同じ建物1階にある大ホール。
     江戸時代後期に黄表紙作家、絵師として活躍した十返舎一九原作「東海道中膝栗毛」に登場するご存じ弥次・喜多の神奈川の宿場を巡るお噺。人口に膾炙している“旅の恥は掻き捨て”は元々一九の言とされる。
     物語は東海道の宿場町・横浜と小田原を中心に展開する。幾つかのジャンル(落語・小説など)の作品の肝を今作の中に巧みに織り込み幕末から維新へ至る歴史も踏まえて現代に暮らす我々庶民の日常をも映す展開になっている。発明家として鳴らした平賀源内が考案したとされる「キコエテル」なる機器は現代のスマホによく似た機能を持つ機器だがスマホ同様、SNSが齎したような現象と弊害を齎しそれまでの庶民生活を一変する。
     一方、弥次喜多生みの親・十辺舎一九は戯作者としての反骨精神を見せて瓦版に為政者批判を載せた。これが当の為政者の目に留まり死刑を課されることとなった。この無体に対して弥次喜多が抗弁する。そしてこの抗弁に対しての応えが3日の猶予の間に、どんな罪も許されて極楽往生が叶うという『お血脈の印』という宝物を現在在ると言われている小田原に行き盗んで横浜迄戻り暴虐を恣にする為政者の下へ届ければ弥次喜多に死刑執行する代わりに友人である一九の命を助けてやろうというものであった。為政者は人間不信に陥って現在のような施政を行うに至っている、果たして弥次喜多はこの暴君の魂をどうにかできるのか? はたまた一九の運命、弥次喜多の活躍、と仮に友を救えた暁に弥次喜多が死なねばならぬ運命や如何に! というのが今作の大きな流れであるが、庶民自体は「キコエテル」の大流行の央(さなか)SNS的応答を通して誹謗中傷の応酬、自らそれ迄在ったとされてきた社会的な他者への信頼関係そのものを破壊し、信頼関係が壊れたことによって起こり、益々陰湿であくどくなってゆく庶民レベルでの罵詈雑言は、暴君とされる為政者の凝り固まった信念をも補強してゆく。
     これら負の連鎖を断ち切る術は? 一揆を起し一時の憂さ晴らしの後、更に苛烈な支配体制を招くのか? 或いは? との問いにも繋がり得る。今作実際の大団円ではお祭り騒ぎで華やかに昇華されるが、現に我ら庶民が生きる現代日本での為政者の倫理的崩壊は今作以上に破滅的である。このような現況を変えて行く為に演劇が出来ることは、例えば日本の選挙で勝つ為の条件として挙げられる選挙の三バン(地盤・看板・鞄)のうちから英国のように自分の地盤(地元)からは立候補できないような縛りを付けるような制度を庶民自らが主権者として提起し現実化し得るような流れを提案することも必要で、表現する者としての役割だと考える。

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    2024/03/02 14:17

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