実演鑑賞
満足度★★★★
以前に青年座の公演のために書いた本を本人演出で書き直して、全く感じが変わった作品になったという。その良し悪しは別にして、今回の上演は主演に商業スターの沢口靖子、わきに小劇場出身ながら商業劇場経験も多い生瀬勝久を配することで新しい娯楽演劇に道を開いた。二人へのギャラは苦しいかもしれないが、東芸の地下も、これだけ満席になれば、新商業演劇になるのではないかと希望が持てる。
内容は、大スーパーに押され気味(それでなくとも苦しい)の中小スーパーのバックヤードの一杯セットで、そこの古株、新入り入り混じったアルバイトたちと新任会社側経営店長(亀田佳明)が、何とか身過ぎ世過ぎで日々を送っていく風俗劇で、生活をよく調べてあって、いかにもの、面白さである。
作劇の構成は、新店長の就任セールが成功するか否かの大売り出しへ向かってサクセスストーリーで組んである。その中に、中高年採用とか、万引き(社員も含め)対策の苦労とか。上も下も苦しいスーパー経営とか、現実を巧みに織り込んでいる。永井愛の作品としては、どこかで顔を出す青臭い正義感とか、政治的主張を今回は抑えて裏側へもっていったのが成功した。こうしてみれば、言われなくても作者の意図は十二分にわかる。俳優の力も新生面を引き出している、沢口靖子は経験も十分のスターだが、文学座の舞台でこそ期待されてきたが一般にはそれほどなじみのない若手主演俳優の亀田佳明が特にいい。この新店長の裏にも表にも人物的なふくらまし方がうまい。それが単に風俗劇としてだけでなく、新しい商業演劇にもなっている。休憩を入れて2時間45分。
この劇場でほぼ一月28公演、そのあと全国公演14ヵ所。