期待度♪♪♪♪
白ワインのようなお能
現代的な斬新なお能や、玄人ウケする芸術的なお能を舞う能楽師は何人かいるが、室町や戦国、江戸時代の貴人になって御所やお城にいるような気分でお能を味わうことのできる能楽師と言えば、この人、武田尚浩を置いてほかにいない、と私は思っている。女性の役を舞った場合、「本物の上臈とはこういう人だろう」と感じるほど美しい。戦国の華・お市の方に会ってみたいというかたなら必見である。
能装束のセンスも抜群なことに加え、「本面(ほんめん)」と言って博物館に並ぶような桃山時代などの貴重な古い能面=面(おもて)を観世宗家から拝借して舞うことも多く、視覚的にも美術品を鑑賞できる楽しみがある。能面はもちろん博物館のショーケースの内に飾って鑑賞するよりは、生きた人間が着けて舞ったのを観たほうが美しい。
能のことがわからぬ人にも彼の素晴らしさは伝わるらしく、初めてお能を観る外国人や女子大生に好評なのだ。
「白ワインのお能」と私は呼んでいるのだが、観能後、不思議と白ワインが飲みたくなる上品さ。雨男なのか、当日、雨が降ることが多いが、終演後、虹が出ることでも有名。神々しいのだ。