「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」 公演情報 名取事務所「「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    「屠殺人ブッチャー」2017年度の読売演劇賞を受けた作品の、これは三演で、演出が生田みゆきに代わった。前舞台を見ていないので、つい比べたくなる悪い癖を免れている。新鋭の才女はご贔屓だか、一、二演は見ていないから偏見なく見られた。よくできている。見事な演出である。1時間半息をのむ間もないサスペンス劇である。それでいて3時間の芝居を観たような重さだ。
    中東あたりの旧ソ連邦国家群の辺地にある警察署の、雨の降るクリスマスイブの話である。分裂している民族国家の一方の旗頭とみられている将軍(高山春夫)が拷問のあともあらわに担ぎ込まれる。言葉が通じない。急遽女性看護師(万里紗)が通訳として呼び出される。警察署の刑事(清水明彦)、その地域の弁護士(西尾友樹)が、将軍の身元を明らかにしようとするが、その裏には、恐るべき葛藤が秘められていた。
    その仔細はスジを語るより、やはり芝居は目前で人間が演じるのを見るのが一番である。次々と明らかになっていくこの辺地の民族紛争に現代社会の災厄の根幹が隠されている。それが、現実になって吹き出すクリスマスの夜の事件だ。
    この事件には、ウクライナの紛争にも、イスラエルの戦争にも共通する現代の災厄の原型がある。現代の世界に生きる人間にとっては、その存在を保証する生存の原則はない、いつかお互いに憎み合う、そして憎しみを忘れない。こうして紛争は多分無限に続く。
    その現実を辺境の地の一夜の物語に圧縮してみせる。その仕掛けはなかなか周到で、カナダの地方演劇にこういう本が上演されていると言う事実に驚いた。「世界演劇」だな、と思う。俳優は皆訳をよくつかんで隙がない。
    長年カナダの商社で普通の仕事をしてきたサラリーマンの芝居ずきの人(訳者・吉原豊司)がカナダ演劇を我が国の舞台に紹介してきたということにもある種の感慨がある。逆に、学生上がりの若いカナダ人が文楽に入れ込み70年代に文楽の舞台を映画撮影した作品が当時の良い時代の文楽の唯一のカラー映像だと言うこともある。現代に生きる市民にも文化に歴史を刻むことはある。言葉は安いが、一見を勧める舞台である。



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    2023/11/23 19:31

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