実演鑑賞
満足度★★★★
新国立主催公演以上の成果が視られる事のある研修所公演。今作は卒業生の補助無し、18期生のみの舞台だったが、出色。老齢の役があるが、年齢差のハンディはむしろ「にも関わらず」の域。主役の正八(新美南吉)、幼馴染のちゑ、教え子の初枝の風情がいい。「日本の劇」戯曲賞受賞記念の公演よりも作風に迫っていた。(私がしばしば不評を言う田中麻衣子が演出。見直した。)
童話作家として評価されて行く新美南吉の評伝劇というより、内的世界の軌跡を眺める趣きがあり、そこにスポットを当てたくなる人生であったりもする。彼を通り過ぎた「事実」は衝撃であったりするが、周囲ほどには彼は騒がず、飲み込む。だが観客はその心模様を想像する。それは舞台上の風景やちょっとした彼の仕種や数少ない台詞の中に痕跡を残し、彼が文字を書いた実績によるのでない、彼の内的世界が「存在した」事の中に、意味がある、と感じられてくる。
そしてその事を確かめるために、彼の童話をこれから、開く事があるのかも知れない。