「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」 公演情報 名取事務所「「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「慈善家-フィランスロピスト」

    死ぬ程面白い。全く関係ないのだが『ハスラー2』を思い出した。格式高いハリウッドの名画のようで、ポール・ニューマンやマーティン・スコセッシがよく似合う。渋目の佳作。
    カナダの劇作家ニコラス・ビヨンが名取事務所に書き下ろした新作。

    この作品はアメリカの誰もが知る大手製薬会社パーデュー・ファーマ社の起こした「オピオイド危機」が元になっており、上演前からスクリーンにその旨を記した文章が流されている。

    オピオイド(麻薬性鎮痛薬)系の医療用鎮痛剤「オキシコンチン」。モルヒネと同じく阿片を原料とする。元々は癌における鎮痛剤として使用され鎮痛作用と共に陶酔作用がある。中毒性依存性が高く、現在では各種麻薬中毒の入口と呼ばれる。

    1995年、パーデュー・ファーマ社が「オキシコンチン」を中毒性のない奇跡の鎮痛剤と医療業界に猛烈に売り込んだ。どこのクリニックでも痛み止めとして簡単に処方されるまでに。1999年から2020年までに米国では約50万人が処方薬と違法オピオイドによって死亡。今も依存症に苦しむ人々が200〜300万人。千件以上の訴訟。被害者団体はオーナーであるサックラー・ファミリーこそ「死の罠」の仕掛け人だと告発する。処方鎮痛剤が引き金となって依存症が広まったのだと。
    2017年10月、トランプ大統領はオピオイドの乱用に関する「全国的な公衆衛生の非常事態」を宣言。「国家の恥」であり、「人間の悲劇」とまで。

    その総資産が140億ドル(約2兆円)といわれる米国の大富豪、サックラー・ファミリー。今作のモデルであろうモーティマー・デイビッド・サックラーは慈善活動により英国帝国勲章、ナイト&デイム・コマンダーを授与されている。美術館や大学への巨額の寄付によってサックラー・ファミリーは現代のメディチ家とまで称された。

    現在、パーデュー・ファーマ社は8700億円の和解金を支払うことで破産申請中だが、創業家一族を不当に保護するものだと最高裁は無効を検討中。

    大富豪の慈善家に藤田宗久(そうきゅう)氏。『ペリクリーズ』も凄かったが唯一無二。まるで映画を観てる気分。
    古き付き合いの美術館館長に荒木真有美さん。
    若きアシスタントに谷芙柚(ふゆ)さん。
    敏腕弁護士に鬼頭典子さん。
    美術館の傲慢で軽薄な理事に加藤頼氏。加藤剛の息子!

    この5人にそれぞれ見せ場があり、A面B面裏返すようにあっと驚く別の一面がめくられる。後半になるにしたがって作者の仕掛けの周到さに感嘆。人間の世界はそんな甘っちょろいもんじゃないんだよ、と若き谷芙柚さんに突き付けるように。作家の純粋なるメッセージにも驚いた。もう今の日本人ではこんな作品を書けないだろう。余りに真実を舐め弄び過ぎた。
    役者陣は全員次の作品も観たくなる凄腕ばかり。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    寄付者と非営利団体の間に交わされる見えない交換条件。大金の代わりに一体何を受け取ることが出来るのか?非営利団体側の懸念は自分達のイメージ。汚い金を受け取ったことへの付いて回るマイナス評価。寄付者のメリットは団体に無言の影響力を持つことや自分達に対しての肯定的な承認。ある種の口止め料。慈善事業の持つ社会的意味とはれっきとした商いであった。

    加藤頼氏は若き柄本明の高嶋政伸風味。高畑裕太っぽい邪悪なオーラも感じた。クズのお手本。
    鬼頭典子さんの寝返りっ振りは見事にハリウッド映画。こうでなくっちゃいけない。
    荒木真有美さんの設定が面白い。ボンベイのスラム街出身の成り上がり。途端に興味を示した藤田宗久氏。「貧困に対する罪悪感への免罪符を私に求めたのよ!」凄い発想。
    ある意味主人公である谷芙柚さん。パーティーに行こうとしていた私服が最高。厚底ローファー。

    荒木真有美さんが藤田宗久氏の真意を暴くシーンに興奮したが内容がイマイチ期待外れ。
    ラストの谷芙柚さんの「金よりも大切なものがある!」的展開には驚いた。凄く青臭い70年代のドラマみたい。悪い大人達の言いなりにはならない純粋な子供達の叫びみたいな。逆に作家が本気でそう思っているならば感心する。もうそんな気持ちも失くしてしまった。

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    2023/11/21 21:35

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