光への道は遠く 公演情報 オフィスリコプロダクション株式会社「光への道は遠く」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「夜明け前​ ー吉展ちゃん誘拐事件ー」

    アフタートークのシークレットゲストが小出恵介氏。だが客層的にイマイチ沸かない。観客はこんな暗い昭和の犯罪史シリーズをわざわざ観に来る層だ。
    黒澤明の『天国と地獄』の予告篇を観て、子供の誘拐を思い付いたというだけで心底暗くなる嫌な事件。2019年初演。

    1963年(昭和38年)3月31日台東区の入谷で起きた4歳児の誘拐事件。2年3ヶ月後、小原保(こはらたもつ)32歳が逮捕されて死刑になった。仕事をクビになり、借金返済の為、実家の福島に金の無心に行くも結局顔を出せず仕舞い。戻った東京で事件を起こす。

    右足に障害を持つ犯人役は演出も兼ねる田島亮氏。今作では七人兄弟の六番目の設定だが実際は十一人兄弟の十番目(二人は生まれてすぐに死んでいる)。

    公開された脅迫電話の東北訛の声が兄だと疑い、警察に届ける弟に五島三四郎氏。愛憎入り混じった兄弟関係。
    その妻、奥野亮子さん。豪華。

    MVPは犯人と同棲する愛人、山像(やまがた)かおりさん。男を信じるしかない老いた女の哀れさ。荒川区の一杯飲み屋「清香」の女将。犯人との情感溢れた遣り取りがこの作品を彩る。

    テーマは『真人間』。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    犯人の母親と平塚八兵衛を登場させないことに拘りがあったのだろう。本来なら、かんのひとみさんは母親役だろうに。
    福島の郷里をびっこを引きながら乞食のように歩く田島亮氏の絵が欲しい。真人間になりたくて真人間になれなかった男が荒れ野を独り彷徨う事件直前の絵。

    今シリーズの影の主人公は平塚八兵衛刑事。本来、平塚八兵衛がアリバイをことごとく破り、追い詰めていくのがクライマックスになる話なのだが、彼は登場しない。代わりに犯人の家族達がコロスとなって四方八方から問い詰めていく。

    平塚八兵衛達がアリバイ崩しの為に福島に行った折、犯人の母親が泥に頭を擦り付けて地べたに土下座してきた。「私は保をそんな人間に育てた覚えはないが、もし保がやっているんなら、早く真人間になって本当のことを言うように言ってやってくだせえ。」

    犯人逮捕後の母親の手記「わしは吉展ちゃんのお母さんが吉展ちゃんを可愛がっていたように、お前を可愛がっていたつもりだ。お前はそれを考えたことはなかったのか。保よ、お前は地獄へ行け。わしも一緒に行ってやるから。」「どうか皆様、許して下さいとは言いません。只このお詫びを聞き届けて下さいまし。」
    事実、犯人の死刑が確定すると母親は自殺した。

    獄中で短歌を始めた犯人。ペンネームの福島誠一には「今度生まれ変わる時は愛する故郷で誠一筋に生きる人間に生まれ変わるのだ」という意味を込めた。

    この事件で犯人を取り逃がし、身代金を奪われた失態から国民から警察は猛バッシングを受ける。この2ヶ月後に起きたのが有名な「狭山事件」、無理矢理怪しい奴を逮捕して事件解決をアピール。このような暴力的な解決法が乱発され、かなりの冤罪事件が起きることとなった。60年前、狭山事件で逮捕された石川一雄氏は仮出獄した今も「再審を求める抗議集会」を開いている。

    大竹野正典氏が永山則夫を主人公に書いた『サヨナフ』や劇団チョコレートケーキなんかに比べるとぬるく感じてしまう。自分は脚本家の笠原和夫のファンなのだが、彼は調査魔で病的に題材について調べ尽くした。殆ど映画には使えない内容なのだが、自身の知識欲、好奇心を充たす為に何の取材か判らなくなる位徹底的にやった。その上で落とし込んだ脚本なので、匂わせたこと敢えて書かれなかったこと一つ一つに意味がある。そんな作品を観たい。

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    2023/11/05 09:04

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