実演鑑賞
満足度★★★★★
手当たり次第にあれこれ芝居を見始めた頃、あの気分は震災後のまだ余震を錯覚してしまうような時期だったが、はじめて遊戯空間を見たのもそんな時期で、とある寄席で行われた「仮名手本忠臣蔵」全通しがそれだった。
その後和合氏の詩の劇や、その他ユニークなパフォーマンスを観た。私が何に惹かれているのか、と自問してもうまく言えないのだが、伝統的演目でも現代詩でも、原典に対する折り目正しきリスペクトと、飽くまでもそこに立つ所から必然的に生まれる演出趣向に留めている事(という感触)、要はストイックさと言えるか。
「吉良屋敷」も飽くまで遊戯空間のその在り方をベースに、であるが、贅沢な舞台であった。吉良邸内という閉じた場での悲喜劇として描いた井上ひさしの作とは、同じ「吉良邸内」でも趣きが異なり、最終的に吉良側にシンパシーを覚える描き方をしている。そのあたりは意見は様々かも知れないが、閉塞感よりもむしろ広がり、多彩な場面から吉良邸の日常(と言ってもこの日はハレの日に当たるがそれも含めて)が浮かび上がり、趣向の数々が贅沢かつストイックに舞台を彩っている。
雪が降っている、と読み手が伝える。「その日」であると分かる。その瞬間までの十数時間が、それとは言及される事なく(なぜなら吉良邸の者はその日が何の日になるかを知る由もない)、淡々と時が過ぎる。