検察側の証人 公演情報 俳優座劇場「検察側の証人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    クリスティはフーダニット劇と名付けられている犯人探し劇を作り発展させた作家だが、それはもう半世紀以上以前。「検察側の証人」は犯人探し、というより、裁判劇として知られているが、いかにも古い。いまでもロンドンでは上演されている名作と言うが、昔の実際の法廷を使ったロケ舞台として上演されている由だから、半分は遊園地の名物興行だろう。
    作品が知られるようになったのは、多分、チャールス・ロートンと、ドイツ女のマレーネ・デイトリッヒ、若手随一の人気だったタイロン・パワーの大顔合わせでビリーワイルダーが監督した喜劇タッチの映画が大当たりしたからだろうし、日本でその後当たったのは、フランス帰りの大女優岸惠子に、売れ筋監督の市川崑の舞台初演出で流行り物として西武劇場が、上演したからだろう。当時の翻訳現代劇としては珍しく、一月近く上演していた。多分これがクリスティ劇としては最高の当りである。
    やはり、役者とか、仕掛けとか、もう一つのプラスワンの要素がないと、ミステリ劇はなかなかお客を呼べない。よく知られている割りには上演の機会も少ないし、やってみると客は薄い。今回の「検察側の証人」は俳優座プロデュースの制作で、ここは、ミステリ劇系の上演を長年やっている。東京で新劇系の中堅の俳優をキャステキィグして、それで地方を回る。「罠」(トマ)とか「夜の来訪者」(プリーストリ)とか、スタッフ・キャストを入れ替えながら長年やっている。いまは文学座始め各新劇団も中堅の俳優・演出を出し合ってそれなりの座組になっている。台詞はしっかりしているし、地方で新劇を見てももらえるし新人教育にもなるだろう。生活の基盤にもなる。良い企画だ。これに、「検察側の証人」が加わったわけだ。
    俳優座で上演するのは二十数年ぶりと言うが、確かに最近見てはいない。地方周りの企画にするにはミステリ劇は8人前後の出演者でこじんまり娯楽劇に作らなければいけないのに、二十人以上の出演者がいる。舞台も裁判所法廷を始め何杯もあって、座組が大きい。
    昔の戯曲だから、当世風に変えざるを得ない。俳優座劇場で2時間45分、これでも十分長いが、かなり原作を切っている。それも時代にあわせて上手くテキストレジして上演台本にしている。今回一番の上手い工夫は問題の核になる検察側の証人・ローマインを原作の出を大幅に遅らせて1幕の幕切れに登場させて、そこで休憩を入れたことだろう。
    この工夫で、前半犯人探しのミステリ劇、後半は国境を越える男女のロマンス犯罪劇の二つのカラーを判然と見せて、楽しめるようになった。演出は文学座の高橋正徳、この人の演出では古川健の「60‘sエレジー」というすぐれた現代劇があった。時代を芝居の中から上手くつかみ出して表現する。「検事側の証人」でも、東西冷戦時代のヨーロッパという広くもない地域で出会った男女のが犯罪に惹かれていくところが、ことによると原作よりも上手く表現されている。
    すっかり古びてしまったクリスティの芝居を生き返らせた功績も評価したい。



    ネタバレBOX

    しかし、といっては申し訳ないが、大劇団中心のキャスティングだけに皆、台詞を噛んだりはしないし、板の上の動きも的確、2時間45分足らずで上がったのはさすがであるが、地方で見せるときは、もっと、面白そうにやっても良いんじゃないか。これでは息が詰まる。木ノ下歌舞伎風に東西の裁判所の違い、法廷関係者の気風(判事、弁護士、関係者)、法廷のシステム、ヘンなカツラの由来、冷戦時代のスパイ合戦、など面白そうなイントロがあると、一層大劇団の実力が引き立つと思うのだが)

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    2023/10/27 12:11

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