不滅 公演情報 鵺的(ぬえてき)「不滅」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    正義と悪は紙一重。
    たとえ取り返しのつかない事態に陥ったとしても、やられたらやり返すことは許容の範囲内だと言えるのか。正義とは何か。正しい態度とは。
    理性が揺らぎ、本性が顔を出し、いつしかダークサイドに吸い込まれていく人間たちのエゴイズムに同調している自分がいた。
    人の死を期待する観客へこの作品は口当たりのよい言葉でまぶさずに純度の高い悪意でスマートに応えてくれる。
    果たしてそれはいいこと(正義)なのか。観劇後、そんなことすら何だかどうでもよくなった。

    ネタバレBOX

    17年前、17歳の少年によって引き起こされたバスハイジャック事件によって妻を失った中西は、犯人の元青年・向井とボランティア活動で知り合った恋人・美紀につき纏い、時には頭を殴る、髪の毛を引っ張るなどの酷い暴力行為を行っている。
    もう止めてください。と、弱々しく懇願する美紀の言葉は中西の悪意に火を点けて、一層激しい怒声が辺りに響く。
    向井は抗うことなくなすがまま押し黙り、空の目をしてじっとどこかを見つめている。
    場所は向井と恋人が滞在する東京から離れたどこかのホテル。そのテラス席での一幕が舞台。

    どんなに願っても妻はもう、戻っては来ないというやりきれない思い。
    その思いとは対照的に、更生期間中に知りあった恋人の美紀と仲良くやっているだろう向井の存在が中西を、絶対的な憎悪や怒りに駆り立てる。
    果たして。彼らに苦しみを与え、裁き続けることは妻へのせめてもの償いであると言えるのだろうか。あるいは彼らを不幸のどん底に突き落とす。その熱意が中西を生かしているのだろうか。

    そんな3人のやりとりをあらかじめテーブルの下に仕掛けておいた小型の盗聴機で確認する里見はこのホテルに休暇で滞在している。興信所に勤める職業柄、人の秘密を集めるのを趣味としているが、3人の会話をレコーダーで再生した里見は驚きと興奮を隠せない。

    また一方で同じホテルに滞在している父と高校生の娘、京の距離感は埋まらず、ギクシャクした関係が続いていた。京はパチンコをしている最中に熱中症で死なせた彼女の双子の方割れとそれが原因で妻から逃げられた父親を心底恨んでいて、父親の話を聞く耳は持っておらず、反抗的な態度で、携帯電話ばかりいじっている。挙げ句、避妊をすれば自分は生まれて来ずにすんだ、とまで言い放つ。彼女にとって父親は、自分から母親と自分の姉妹を奪った悪者としか認識できないのだろうか。
    やがて京の怒りの矛先は、自分より弱い者に向けられて、猫を殺す行為へと発展する。
    『生きている意味が分からない』彼女は猫に『死』を与える実験を施すことで、自分の存在を『確認』し、生きてる感覚を取り戻す。
    そしてこの病的な試みは、「罪の意識は持っていない」という向井の『本性』と出会うことで安堵感を獲得し、また、怒りによって殺すことは『間違ってはいないんだ』というサイコロジーを生む。

    そして、かつて向井を『神』のように崇めていた里見と出会い彼が『殺人をプロデュース』することで彼女は『殺人鬼』へと華麗なる変貌を遂げる。
    警察や政治家らにも彼女の犯罪に加担している者がおり、証拠を隠滅するのは容易いことで、犯行現場にトレードマークなんぞ残すサーヴィスなんかも行っていることが、京と向井が失踪した後に一年間続いていたということを、向井の恋人と京の父親に説明する里見は最後、ふたりに襲われて死ぬ。「こんな死に方ダメーー!」とダイイングメッセージを残して。

    終盤の「一年後」の場面は、今までのダークな作風が一転して、コミカルになったので正直、アレレ?とおもった。里見が京の犯行の『功績』をファイリングしたものをふたりに説明する場面なんか、めちゃくちゃポップだったし。京が父の顔をみたいっていうので里見が写メ取ろうとするところとか。悪趣味だけど、あぁいうヤツいそうっていう妙なリアル感があった。最後の場面はあれはウケを狙ってたのかしら。下の方にギャグだった、と書いている方がおられたけれど、確かに私にもそう見えた。実際ちょっと笑っちゃったし。加害者と被害者の立場が逆転してどいつもこいつも悪人になるっていうオチは、好き。

    台詞の行間にどんよりとした沈黙があって、それが何だかちょっと黒澤清の映画っぽくていいな、とおもった。ただ、空間の使い方がちょっとぼんやりし過ぎている印象があって、勿体ないな、と感じることはあった。
    個人的には、下手側の観客席に設置されているお立ち台(?)的なあの場所or上手側の2階席へ通じる階段を用いて『覗く』視点があったら舞台の印象が変わったような・・・。
    あと小鳥の鳴く声とか、平和を象徴する環境音がもう少し欲しかったかも。
    だけど、そんなことも気にならなくなるくらい、高木さんの描く世界にはすごく惹かれる。

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    2010/06/27 19:33

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