実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/10/16 (月) 14:00
座席1階
劇団チョコレートケーキの古川健の書き下ろし。歴史的なトピックを丁寧に取材して構築する古川らしい脚本だった。演じる青年座との相性はぴったりの舞台だった。
同盟通信とは、戦前から戦時中にかけて新聞などにニュースを配信する通信社を国策で一つに統合した会社だ。戦後、共同通信と時事通信に分かれ、今に至る。政府の報道統制に巻き込まれたとはいえ、大本営発表を垂れ流して国民を戦争に駆り立てたという点では、当時の新聞社やラジオ局と同じ十字架を背負っている。だが、自分から見て同盟通信の罪がより重いのは、世界のメディアの打電情報をキャッチし大本営発表がウソまみれになっている事実を具体的につかみながらそれを国民に伝えなかった点にある。今作で、古川はこの点に鋭く切り込んでいく。
政府に統合させられ、社内に軍部や外務省が乗り込んでくるのを許した時点で、この会社は既にジャーナリズムとは言えない。古川は、それでも報道人・ジャーナリストであり続けたいと抵抗した若い記者を主人公に据えることで、報道の自由の重要性を浮き彫りにしている。
劇中の人間ドラマが面白い。外国通信の情報を通訳・翻訳する女性で、夫が米国人だったりしてアメリカと関係の深い二人が登場するが、片方は入社時に日本国籍に転向し、片方は米国籍のままという設定が妙である。また、自分の身を守るために本当の事実を伝えなくても仕方がないのだと折り合いを付ける上司もいたり、立場や考え方が異なる記者たちの会話劇によって、現場の苦悩が鮮やかに描き出した。
ジャーナリズムとは、政府など権力におもねらず、粘り強い取材で権力側が隠蔽している真実を掘り起こし、警鐘を鳴らすという仕事だ。政府が誤った方向に向かっている時に「番犬」のように吠えるという役割である。日本のジャーナリズムは、戦時の反省や教訓を毎日の仕事に生かしているのか。情報の受け手もきちんと見極めなければならない。