実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/10/12 (木) 14:00
座席1階
関東大震災から100年。発災後に起きた朝鮮人などの虐殺を真正面から取り上げた力作。韓国の大御所劇作家金義卿の作品を、金守珍が在日の視点で演出をしたという。
特徴的なのは、冒頭に登場する若い女性二人が、虐殺の被害者らが務めていた鉄工所の跡地を訪ねるという場面から始まることだ。100年前と当時を結ぶ演出で、多くの日本人が忘れ去ろうとしている歴史を今に記憶するという意味を持たせている。梁山泊らしい妖艶な演出で、女性たちが「自分たちは歴史を記憶するために何もしてこなかった」などとリフレインする。
物語は、当時の日本の植民地戦争で現地の人たちなどを殺害した男が経営する鉄工所が舞台。その贖罪の思いから、男は、日本人に土地を奪われて内地に移住してきた朝鮮人たちを積極的に雇用している。工員たちはその思いに感謝をしている。だが、トラブルを起こした若い朝鮮人従業員を追ってきたヤクザともめている時に震災が起きる。
男の息子も軍人で、地元の在郷軍人会の役員を務めていたが、従業員の朝鮮人の娘と恋仲となっていた、という筋立てが「失われた歴史」のもう一つの側面をあぶり出す。息子は軍人としての立場から娘との結婚に踏み切れないでいる。立場の溝が二人を引き裂くという物語を浮き彫りにすることで、日本人による朝鮮人への差別意識を舞台上に表現していく。差別している日本人の中に「朝鮮人から復讐される」という恐怖が生まれ、狂気に変貌していくという当時の空気だ。
今回はいつにもまして、出演者たちの熱演が光った。悲劇の朝鮮人娘を演じた望月麻里は見事だった。朝鮮人従業員のまとめ役を演じたパギやんはさすがの立ち居振る舞いだ。留置場に入れることで自警団の狂気から朝鮮人をかくまった刑事を演じた大久保鷹の演技は、いつも以上にいい味を出している。
劇中、インターミッションのようにパギやんが当時の朝鮮人たちの言葉遣いなどを説明する場面を作ったのは秀逸だ。スズナリの客席の半分以上を占める若い世代に効果的な解説だった。
梁山泊のテイストを保ちながら、金義卿の作品へのリスペクトを織り込んで演じた今作。次の100年でこの歴史を失わないために、絶対に見逃してはならない舞台である。