おふとんのなか 公演情報 演劇企画集団LondonPANDA「おふとんのなか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ライフラインは一本のケーブル。
    若者たちの実生活とオンラインでの振舞いを対比させながら、人との関わり方や、社会との繋がり方を見つめる作品。
    二次元キャラクターがトレースされた三次元の身体でネット用語(絵文字、記号含む)を発話したり、立方体と展開図を交互に動かす舞台装置の仕掛けなど頭に浮かんだアイディアを具象化するセンスが突き抜けていた。
    まぁ若干、力技で押し切った感は残るけれども、それが団体の持ち味なんだろうか。
    今後の活動に注目していきたい。

    ネタバレBOX

    32歳、実家暮らし、ニートの主人公ゆーとがハマっている複数人と協力してコマを進めるタイプのRPG型ネットゲーム。そのプレイヤー仲間とのオンライン上の交流が武士、メイド、執事、王様、勇者など様々なコスプレ衣装に身を纏い、二次元のキャラクターに扮した役者によってアナログ的に再現される。ネット用語も、たとえばwは「ワラ」、(^∀^)ノシは「ノシ」と発音し更に片手を上げるなどのジェスチャーを交えて表現したり、チャットから落ちる=舞台から出て行く時のしぐさなども凝っていて、楽しめた。

    このままずっとこの調子なのかな?と思っていたら、舞台の真ん中にでーんと構えている大きな立方体が3方向(上手、下手、前方)に開いて、驚いた。
    そのなかにゆーとの日常があったのだ。ひきこもる=箱のなかに閉じ込める、その発想に戦慄を覚えた。

    彼の日常からネットゲームを除くと何も残らない。会話は、自室の前に食事を運んでもらう母親とだけ。面と向かって話すことはない。自室の扉を誰かが開けることを拒むという態度は、社会と繋がることを拒絶する宣言でもある。その描写は非常にリアリティがあった。

    物語はこの後、自他共に認めるネトゲ廃人のゆーとを心配したプレイヤー仲間らがオンラインを飛び越えて、ゆーとの家に遊びにやってくる。ネトゲー上ではメイドキャラに扮していたひとが実はちょっとイカツイ30代の男性だったり、武士に扮していたひとは実はカワイイ女子大生だったりする見てくれ的な驚きがあったり、オフラインになると、元気?から会話が進まなかったり・・・。
    そんな中でも、王様キャラに扮していたサラリーマンと女性大生がイイ関係になってやることやっちゃう・・・。笑
    ゆーとを元気づけるために遊びに来たんじゃなかったの!?と軽く突っ込みたくなった。人って、こんなもんなんだろうか・・・。

    もんもんとしていたところへ、衝撃的なニュースが母からゆーとの耳に伝えられる。父親の会社が倒産してしまったのだ。母は続けて、今より仕事をたくさんするので生活はしていけるけども、今の家に住んでいることができなくなってしまったことや、ゆーとに渡す小遣いが今より減ってしまうことを詫びる。
    この時彼は、劇中はじめて母親と向き合い、労わりの言葉をかける。「母さんは、大丈夫なの?」たった短いこの一言は、今までの彼の振る舞いからすれば考えられない台詞である。母はその言葉に息子の成長を想ったのか、これから辛い思いをさせることに心底申し訳ない気持ちになっていたのか、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

    この一件がきっかけとなり、ゆーとはネットゲームと決別する。働くことを決め、バイト先も見つかった。先日家に遊びに来てくれたプレイヤー仲間の高島平(メイドキャラに扮していた男性)にその喜びを、お寿司をおごって還元する、という。

    最後、ひとりの若い男が登場する。男はスエット姿で、ゆーとがかつていた部屋と酷似した場所にいる。日常は荒廃しており、パソコンの前にかじりついている。彼はゆーとのプレイヤー仲間で、ゆーとがネットゲームを退会する際に自身が使用していたキャラクターを買い取った男だ。ゆーとがキャラクターのデータを消去して、トンズラしたことに気がついた男は、あたり構わず叫びちらして部屋を出る。

    この後男がどこに向かったのかは容易に想像がつくところだが、ゆーととこの男に共通することは、衝撃的なアクシデントがふたりを外に追いやったことであり、外に出たい、という積極的な意志では決してなかったことだろう。
    ネットとはいえ、画面の向こうに誰かがいる。という安心感が彼らの何かを繋ぎとめているように思えてならなかった。

    0

    2010/06/22 23:58

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大