実演鑑賞
満足度★★★★
タイトルで随分損をしている。米内山陽子さん脚本の傑作『インディヴィジュアル・ライセンス』と同系列の作品だと思う。何処にでもいる普通の女性が真の“女性の自立”についてかすかに気付き始めうっすらと目覚め始める黎明の予感、その息吹。女性にしか感じ取れない肌感覚を巧みに表現。
全く情報を入れず、井上薫さんだけを頼りに観に行った。
主人公の田野聖子さんは入国者収容所から仮放免となったカンボジア人(椎名一浩氏)の身元保証人となり自宅に住まわせている。隣に住む町内会会長(山口眞司氏)は「犯罪者の外国人がうろつくことに皆が不安がっている」と退去を勧告する。そこに突然現れるのは離婚した旦那に引き取られていった息子(吉田晴登氏)、十年ぶりの再会。
主人公の中学からの親友、井上薫さんと息子の吉田晴登氏の存在が素晴らしい。観客の気持ちをズバリ代弁してくれる。全くその通りで嘘がない。こんな面倒なことに首を突っ込んだってつまらないじゃん。この二人の感覚に嘘がない為、観客も安心して観ていられる。社会運動に入れ込んでも嫌な思いをするだけ。何故そんなことを?
反権力弁護士は田代隆秀氏。三代目結城一糸・江戸伝内氏かと思った。やはりこの系の役は遠藤誠を踏襲せざるを得ない。
クルド人の夫を収容所から解放する運動をしている川田希さん。元バックパッカーという背景がよく伝わる。リアル。
山口眞司氏は知っているそういう立場の人間にそっくり。『福田村事件』の森達也と同じく、キャラの造形、台詞のチョイスが素晴らしい。作家の人間観察に感心した。
アイスや水羊羹が美味そう。
皆が探しているものはきっかけ。自分が無心に情熱を注ぎ込めるものとの出会い。無欲に損得抜きに出来得る限りの全力で捧げたいと思わせるもの。人間は自分の為だと思うと大して力を出せないが、他の誰かの為だと信じられれば底知れぬエネルギーが噴出するもの。皆持て余した自分の生命を注ぐ場所を探しているのだろう。きっかけさえあれば!
社会運動モノではない。もっと普遍的なもの。
是非観に行って頂きたい。