ホテル・イミグレーション 公演情報 名取事務所「ホテル・イミグレーション」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    リビングルームで入管問題に迫る芝居。平凡な主婦が、入管問題を知って一歩行動に踏み出す。観客も登場人物とともに、日本の入管行政の遅れ、収容者への無法な扱いを知っていく。本作が啓蒙的な演劇でおわらないのは、そういう入管の非道を支えているのは、無関心な「あなたたち」ではないか、と問いかけるところにある。

    柴田春江(田野聖子)の家に、突然、息子祐一(吉田晴登)が父親の家を出て、転がり込んでくる。息子は家に知らない外国人の男がいて驚く。春江は、非正規滞在者のカンボジアの青年ヤン(椎名一浩)を家にあずかっていたのだ。そこに「不法滞在の外国人には出てってもらってくれ」と隣に住む町内会長(山口眞司)が文句を言いに現れる…という滑り出し。春江の中学以来の親友知子(井上薫=好演)も、子と外国人の事となると、偏見が強く、春江に反対する。息子の祐一も。そんな二人にわかってもらおうと、支援団体のリーダーで弁護士の杉浦(田代隆秀)にレクチャーしてもらう。それでも、春江と知子はけんかわかれしてしまう。杉浦自身も春江に「妻に、非正規滞在者を家にあずかるのを反対されて」とうちあける。

    家の周りには「不法滞在の外国人は日本から出ていけ」という張り紙を毎日のように張られ、町内会長は「ヤンが粗大ごみのパソコンを盗んだ」と警察沙汰にしようとしてくる。、四面楚歌の春江だったが、それでもヤンを置くことを辞めようとしないのは、彼女なりの理由があった…。

    ネタバレBOX

    平凡な主婦がなぜ、面倒をしょい込むのか。その理由として、ひどい夫ともめた離婚以来、10年間、アルバイトで細々暮すだけで、「何も変わらなかった」自分を変えたいという春江の思いを描く。後妻の誘惑から逃げてきたという息子を抱きしめて「よく逃げてきた」「会わせてもらえなかったから」というシーンは、春江の肉付けとして重要な意味がある。(ふりかえると、突然、祐一が来た時の春江のリアクションが、割と平静で、弱いけれど)

    ラスト近く、ヤンと祐一が飛び降り自殺を目撃するという突拍子もない事件が起きて、それで芝居は収束へ向かう。自殺したのは、町内会長の息子で、13年引きこもりだった。張り紙もその息子の仕業だったとわかる。ヤンは自殺事件直後「私のせいだ」と叫ぶが、落ち着いてくると「私は何もしていない。私のせいではない」と。でもヤンは帰国を決意する。日本で無為に過ごすのは「私の心が死んでしまう。心が死んだら、ただ生きていても意味がない」だから、「命は危ないけれど、カンボジアへ帰る」というのだ。
    ヤンが「またあいましょう(そのために自分は死なない)」とカンボジア語であいさつし、春江も同じく返すラストはシンプルで美しい。

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    2023/09/16 13:12

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