満足度★★★★
堅守速攻
qui-co、初めて観劇。
劇場のセレクトも演目もどちらかといえば
イマドキではなく、熱くて人間臭い。
しかし、黒澤世莉のサッパリした演出と
女優 堀奈津美の華やかさが
その暑苦しさに涼やかな風を通しており
作風に反してとっつきやすかった。
作家と演出家の組み合わせがよかった。
また観たい。
≪演出についての感想≫
ある教団がかつて起こした「事件」。
登場人物達の家庭に起きた「事件」。
それによって、家族関係・人生までもが
大きく軌道を変えてゆくというお話。
芝居は「とある事情」で郷里を離れていた兄が、
父の葬儀で久しぶりに実家を訪れたところから始まる。
舞台は黒を基調とした抽象舞台で、
喪服の男が二人出てきてフツーに喋っているだけ。
二人の複雑な関係や、事件の全容など肝心のところは
語られないので、冒頭はとても地味な時間帯であった。
黒澤世莉の演出作品は過去に5回観劇していて、
人間関係や場の空気を丁寧に創って見せる
ドラマのような作品が多いと感じていた。
よって、「やばい。飽きるかも。」と思った(笑)。
ところが、今日の観劇でキュンときたのはこの後の展開で
芝居全体のリズムが途中から起伏を持ち始めたのだった。
特にラスト20~30分は急速にスピードアップするのと同時に
登場人物達が冒頭30分では押さえ込んでいたいろんな感情が
鮮やかに爆発し、物語にグッと引き込まれた。
脚本の良し悪しは自分には判断がつかないが
楽しめた最大の要因は演出であろう。
「芝居のリズムに起伏が~」と書いたけれど、
「リズム」というのは台詞が刻むビートのBPMという意味だけではない。
観客に提示される情報量、投入される照明の光量、音楽、
女優の衣装替え、立ち位置の変化、動きなどが連動して
「リズム」のようなものとして感じられたのだった。
粋な試合運びだった。
また、特筆すべきはそのリズムが機能するために
冒頭の地味な(と自分には感じられた)時間の存在が不可欠であり、
黒をベースにしたディプラッツの一部のような
渋い抽象舞台も一役買っているという点である。
(後半では時間空間をシャッフルして舞台が様々な使われ方をする)
なんか海中生物とかで、ずっと砂の中に身を潜めていて
獲物が近づくと物凄い勢いで襲い掛かるヤツがいたりするけど、
そんな感じのする芝居であった。
≪役者 堀奈津美についての感想≫
約10ヶ月振りに観た。
これまでネガティブな感情吐露が冴え渡るイメージがあったが、
今回の配役はポップな一面でも舞台に彩をあたえており、
守備に攻撃にバランスよく参加していた。
実年齢に近い年齢設定であったように思え、そこがプレーに安定感を
もたせていたように感じた。
描かれているのは人間やし、喜怒哀楽みたいなシンプルな感情だけしか
出さないわけではない。
今回の配役は特に色で喩えるなら「赤を下地に上塗りした藍色」とか
「黄色と灰色のマーブル」とか、ねじれた、微妙な、難しい感情表現が
多かったように思える。
うまく文章にするのは難しいし、作家と俳優が表現したかったことが
全て受け取れたとは言い切れないけど、
ちゃんと一人の人間の人生に触れた感がした。
2500円の見ごたえがあった。
---【蛇足】---
また、こういった実際の事件をベースにした演目を
例えば新転位21の俳優が極限状態まで稽古して中野光座で
上演したって、ポップなオーディエンスは遠ざかるだけだろうと思う。
堀奈津美が演ることにも意味があったとも言える。
足を運んだお客さんはラッキーだったと思う。
事件と家族についてちょっと考えてみたくなった。
ずっと気になってた塩田監督の映画『カナリヤ』も観てみよっと。
なっちゃん、せりさん、御馳走様でした!