2010億光年 公演情報 サスペンデッズ「2010億光年」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    人は誰も未知の大海に漕ぎ出す孤独な船
     早船聡さんの作・演出作品は数作拝見してきましたが、毎回新たな試みがあって驚かされます。『2010億光年』もまた然り。

     おおまかですが、空間は下手から順にリビング、ギャラリー、ベッドのある部屋の3つに区切られます。でも境界は曖昧で2つの場面が重なることもあり。中央上部に設置されたボートの存在感が大きく、額ぶち(10個ぐらい?)が天井から釣り下がっているのも抽象的なイメージを広げてくれます。

     登場するのはギャラリーを経営する未亡人とその弟、カメラマンとその妻、自称画家と盲目女性のカップル、座付き脚本家がいなくなった劇団という、生活スタイルも活動ジャンルも、人生の目的もバラバラな人々。舞台中央位置にあるギャラリーを支点に、徐々に人間関係がつながっていくのが小気味良いです。 最後には悩み、苦しみながら試行錯誤するそれぞれの人生が、舞台上で重なり、すれ違っていきます。人々が互いに光を放ち、乱反射するような、神々しささえ感じるエンディングでした。

     初日だったからかもしれませんが、空間全体が劇世界で満ちていない(舞台が埋まってない)ように感じたのは残念でした。でも最後の暗転時には、全ての登場人物たちをはじめ、作者の早船さん、周囲の観客らと一緒に虚空に浸り、出口の見えない闇を漂う心地になれました。私たちの誰もが、小さな希望と勇気をたずさえて未知の大海に漕ぎ出す一艘の孤独な船なのだと、劇場のイスの中で小さくなりながら、うなずきました。

     当日パンフレットに登場人物名と演じる役者さんの名前が並んでいましたが、役の名前だけだと誰が誰を演じたのか非常にわかりづらいです(役名を覚えていられないので)。左右のどちらが役名で役者名なのかも、パっと見ではわかりづらかったですね。実力も魅力も兼ね備えた役者さんが多数出演されていますので、改善を希望します。

    ネタバレBOX

     チェーホフ「かもめ」第一幕でトレープレフが上演するニーナの一人芝居や、劇中の演出家が気に入ったリルケの詩を、白塗りの前衛演劇として上演するのに爆笑しました。パっと見が既にしっちゃかめっちゃかだし、意味も意図もわからないのですが、「表現する」という人間の行為が愚かしく、愛らしく映りました。

     絵画、写真、演劇、詩、セックス(SM)・・・色んなことに没頭する登場人物たちを見て、「芸術」って何なんだろう、「わかってくれる人」って何だろうと考えてしまいます。人間はさまざまな表現で自分以外の人間と接し、わかり合おうとします。でもわかり合える人とは簡単にはめぐり合えないし、出会えたとしてもその人と結ばれるとは限りません。それに「わかる」と「わからない」の意味も人それぞれ。人間の内面は孤独でしかありえないと思い知らされます。

     「絵画も写真もなくたって生きていける。ただの色だよ!愚の骨頂だよ!」と、画家志望だったギャラリー・オーナーの弟(白州本樹)に言わせたことに感動しました。そんな絶望から生まれた覚悟の先に、芸術はあるのだと思います。

     長期出張の仕事を得たカメラマン(佐藤銀平)は、おそらく妻の待つ家にはもう帰らないでしょう(私はそう受け取りました)。彼もまた、自分をわかってくれる人に出会うために果てしない海に漕ぎ出す船。何億光年も先の、永遠にたどりつけなさそうな遥か彼方だとしても、それを求めて旅立ってしまう人間。リルケの時代から(その前からずっと)変わらない人間をあらわしていたのだと思います。

    0

    2010/06/13 21:33

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大