堕ちてゆくなまもの 公演情報 劇団わらく「堕ちてゆくなまもの」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    屈折したまま
    三つ子の魂百までも・・・じゃあないけれど、人の運命はその属性によって決まる。どんな土地でうまれたのか、どんな種類の人間の中で育ったのか、その生活の中でどういう世界の見方を覚えて来たのか。それで生き方の半分は決まる。不条理劇の部類に入るのだろうか?屈折した心の闇を抱えたまま幸せになれなかった男のお話。

    以下はネタばれBOXにて。。


    ネタバレBOX

    舞台は優一郎が自殺するシーンから始まる。そのまわりにうろつく「見ざる聞かざる言わざる」のように耳や口や目を押さえた無関心な人間たち。その場面は都会のあちこちでの情景だ。

    優一郎は6歳のときに母に捨てられた。母は父からのDVにたまりかねて家出してしまったのだった。母に恋焦がれる優一郎はその想いがある時点に達すると母に捨てられたという感情が憎悪となって増幅してしまうのだった。その後、父は酒に溺れ自害し、優一郎は施設に預けられる。

    優一郎が高校生のとき17歳の少女・弓子と付き合うが、彼女は家族にも友人にも優一郎と付き合うことを反対される。彼女は孤立してしまい、家出してしまうが、頼った見知らぬ男・中谷が悪かった。優一郎は弓子に戻るように説得するも弓子は「貴方のことは好きでもなんでもないの。可哀想だと思ったから付き合った。同情だったの。」と優一郎に爆弾発言を放つ。そうして中谷と一緒に暮らし始めたが、中谷はサドの気のある障害をもっており、弓子に暴力をした挙句、首を絞めて殺害してしまう。

    その後、優一郎は綾という恋人が出来るも、彼女を心の底から信用できなかった。この女も母と同じように、いつか自分の目の前からいなくなってしまうのではないか?あるいは自分と付き合ってくれるのは同情からではないか?そんな不安が常に付きまとい、誰も信用できなかった。そうして彼女の命を懸けた誠意にも応えられないまま、彼女を殺してしまう。

    過去に優一郎が関わった人たちを走馬灯のように思い出し、自分の中の闇を消化できないまま、優一郎は実の母が既に他界してしまった事実を知ってしまう。実の妹とは会えるものの、屈折した心はまっすぐにならないままに自害してしまうのだった。

    この物語に「希望」という文字はない。だけれど、最後の時に彼と関わった人たちが実に優しい。死の間際に温かな人たちに触れただけでも彼の魂は柔らかな母の魂と一緒になれたのだと理解したい。

    見方によっては評価は割れると思う。キャストらの演技力、易占いに集る優しい人たちの情景は温かみがあった。特に中谷のサドの演技の壮絶さは見もの。
    なまじ、繊細な心を持ってしまったばかりに愛することに臆病になってしまった男の物語。

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    2010/06/10 18:10

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