モモ 公演情報 かわさき演劇まつり実行委員会「モモ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     市民が演じるのが基本の演劇祭でここまで凄い仕上がりになるとは! お見事、今後も川崎演劇まつりには注目したい。

    ネタバレBOX

     いわずと知れたミヒャエル・エンデの作品。大人も子供も楽しめる作品なので観客も親子連れも多く908名収容の大ホールもほぼ満席。キャストは市民からの応募も多くWキャストとなっているキャラもある。楽日の15時半開演・トケイ組を拝見。第1場と第2場の間に15分の休憩を挟み18時10分終演の2時間40分の大作。シンメトリックな舞台美術は中央に天地逆U字型の穴が開き上手、下手に階段の付いた円形劇場、ローマは支配する各地にこのような競技場兼劇場や水道橋を創り2000年以上を経た現在も尚多くの建造物がローマの支配したヨーロッパ、中東、アフリカ各地に残る。今作に登場する建造物もその1つ。物語は主人公モモの暮らすこの場所と、人々の奪われた時間を取り戻す為、亀のカシオペイアに導かれたモモが出掛けてゆくマイスター・ホラの支配する時空、そして人々の暮らす街で展開するが、ホラの支配する時空内では大きな時計が下手階段辺りに設えられて臨場感を増すし、街の様子はレストランを経営するニノの店を中心に展開する場面が多い。敵役となる灰色の男たちは、時間泥棒とも称され人間がその本性の一部から生み出してしまったかともとれるほど本質的な人間の弱さか生んだ虚体ではあるものの、一旦生み出されてしまった虚体は却って人間を支配する強力な力となり人間から自由な時間を奪い収奪することで、本来人間の持っていた人間らしさや永続的可能性を収奪する機構として機能する。ハイデガーが「存在と時間」で人間の本質を解き明かそうとしたように人間存在の根底に横たわる大問題に対するシュタイナー学院出身のエンデの挑戦である。
     セットの使い方や照明の用い方が実に的確でうまい。出演者60名以上という大所帯をヒロイン・モモや主要脇を中心に演出家が実に手際良く上手く差配し、何より4か月の稽古中本番を意識した見稽古で出演者各々が、自分が出ていないシーンでも気を抜かず一体感を醸し出すことに成功した点でも素晴らしい。(この指示を稽古初日に出している脚本演出家・(東京ハンバーグの)大西 弘記氏の慧眼を称賛したい。ファーストシーン、ベッポが掃除したシーンの直後に街の人々がモモを発見するシーンでは、ベッポ直後のシーンに対照的な照明を用いてオープニングで観客を驚かし、演劇に引き込む見事な手法を見せてくれる。オープニング直後で、素人らしい若干間(ま)の乱れるシーンがあったものの、その後はグングン調子が上がって群集劇としての素晴らしさも多く見られた。また、原作でエンデが最も訴えたかった内容をキチンと掴んだうえでベッポ、ジジ、マイスター・ホラ、亀のカシオペイアら主要キャラやニノ、ニコラ、フージー、リリアーノ、ビビボーイら脇、街の人々や子供ら群像をきめ細かい配慮で統合制御し分かり易く大人も子供も楽しくみることのできる極めて哲学的本質的でありながら一見何気ないファンタジーに仕上げた手腕が素晴らしい。出演した皆さんの集中力、一体感も素晴らしかった。無論、裏方を担った方々の対応もグー。是非、また川崎演劇まつりを拝見したい。

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    2023/08/02 01:12

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