これが戦争だ 公演情報 劇団俳小「これが戦争だ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    アフガン戦争から帰国したカナダの兵士たちがインタビューに答える、
    答えながらそれぞれの回想を再現ドラマのように見せる、という構成。
    役者陣の熱演が素晴らしい。
    声も台詞も力強く明瞭で、戦地の緊張感がビリビリ伝わって来る。
    だがインタビュアーが知りたがっている「合同作戦」は
    イマイチぼやけたような気がする。

    ネタバレBOX

    ほとんどセットらしい物もなく、舞台中央奥に出ハケの口を残して壁があるだけ。
    ここが時にキャンプとなり、戦いの最前線となり、帰国したカナダの現在地となる。

    登場人物4人が帰国後インタビューを受けている。
    インタビュアーは執拗に「合同作戦」のことを聞いてくるが、
    核心を突く返答はなかなか出てこない。

    質問の合間にはつい作戦前夜のことを回想してしまう。
    皆普通の精神状態ではなかった。
    少し前に罪もない5歳の子どもを射殺してしまった伍長のターニャは、
    それ以来ずっと不安定なままだ。
    自爆テロなのか、重傷の子どもを助けたい民間人なのか判別が難しい場面で
    どうしてもその子どもを助けたいと、軍のヘリを要請する必死の姿が強烈な印象を残す。
    結果的にヘリはこの民間人救助に向かったため、
    作戦の現場で重傷を負ったジョニーの救助は遅れ、彼は重い障害を負うことになる。
    このターニャ役の蜂谷眞未さんが美しくて
    こんな人が部隊に居たらトラブルは目に見えてるだろう、と思わせる。

    スティーブン軍曹の帰りを待っている(はずの)妻は浮気しているが
    だからと言ってターニャに手を出す理由にはならないだろう。
    新兵のジョニーはまだ二十歳、ターニャにぞっこんで追い回しているが
    軍隊ってみんなこんなに性行為で心のバランスをとるものなのか、私にはわからない。
    この”誰かをぶん殴る代わりにやっている”ような性行為が実に虚しく映る。

    終盤、ようやく「合同作戦」がタリバンの塹壕を水攻めにする作戦であり、
    現地部隊からの提案であったこと、部下の負傷に気を取られて
    その残忍さを予想できず、反対しなかったこと、
    その凄惨な結果を知って悔やんでいることが軍曹の口から語られる。

    最後に、その悲惨さを語るのは軍医のクリスだった。
    彼は作戦の「後片づけ」を命ぜられて塹壕の遺体処理に当たる。
    気温50度の中、腐敗の進んだ遺体の山と格闘すると、
    下の方に小さな体がいくつもあった、と語る。
    聞いていたほど、彼らは銃を持っていなかった、とも。
    そして客席に向かって淡々と「これが戦争だ」と告げる。

    「戦争」を兵士目線から語るところは素晴らしい。
    政治や本部の連中から離れた、地べたに近いところから発せられた声がする。
    ただインタビュアーの知りたいことは何だったのか、
    私は「水攻め」のことだと解釈したが、よくわからなかった。

    ”平凡で平穏であるはずの日常”が否定されることから戦争は始まる。
    助けたり見殺しにしたり、間違って死なせたり、愛することを間違ったり、
    他人を貶めたり、それで自分が浮き上がろうとしたり・・・。
    人が日常を喪う。同時に「戦争の日常」が始まる。
    戦地から帰って来てからも、もう以前の日常は戻らない。
    たぶんあまりにも多くの人間の日常を奪ったことから
    もはや逃げられないと知ったから。
    この作品は、そのことを改めて心に刻むよいタイミングだと思った。



    0

    2023/07/26 01:45

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大