恋女房達 公演情報 青☆組「恋女房達」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    吉田さん、ご馳走様でした!
    私が本作を観るに至った理由については長くなるので「観たい!」をご参照ください。
    個人的にはオムニバスが好きで邦画洋画問わず、オムニバス映画をよく観に行きます。昭和の邦画全盛期、映画監督が忙しかったためもあり、良質なオムニバスもいくつか作られていたのに、公開当時はあまり話題にならず、高く評価されていなかったのが不満です。
    このお芝居は上質なオムニバスものですが、ごく普通のオムニバス芝居とは違います。ひとことで表現すると「贅沢な大人の祝祭」とでも言いましょうか、観ていくうちに「大人のアトラクション」を観るための行列に並んでいるようなワクワク感に満ち溢れてきます。
    吉田小夏さんは挨拶文で本作品をお料理にたとえておられたが、食後の感想を言わせていただくと、家庭料理でもなく、よくある外食とも違う、一流店の腕ききのシェフが自らの目で選んだ優れた食材を選び、ふだんのメニューとは一味違う料理を作る期間限定の一軒家レストラン、そこで食事した気分とでもいいましょうか。
    作品のテイストとしては、現代の怪談というか、世にも奇妙な物語的な楽しさが味わえます。しかし決して奇天烈な芝居ではないのでご安心を。
    期間限定レストランですがとてもおいしいので、ふだん本店に行かれてるかたにもそうでないかたにも、お薦めします。
    吉田小夏さん、ご馳走さまでした。とてもおいしかったです。
    アトリエ春風舎ではいつもゆったり観ていたので、こんな混雑を体験したのも初めてでした。

    ネタバレBOX

    赤をうまく使った舞台美術と照明。音楽からして昔の遊園地のようなオープニングが楽しい。
    作品は6つ。「恋女房」は白昼夢といった趣。身重の若妻(小瀧万梨子)に保険のセールスマン斉藤(荒井志郎)が保険を勧めていると主人(藤川修二)が帰ってくる。昼時なのでそうめんを振舞おうとするが、次々違う「女房」が現れるのでセールスマンは目を白黒。主人はさも当然であるかの様子。もしかして一夫多妻制なの?さらに斉藤の前任者芹沢の妻(大西玲子)まで乗り込んできて、「その子、芹沢の子じゃないでしょうね!」と激昂。妻のひとり(木下祐子)が斉藤に昼寝を薦め、「芹沢さんはよく昼寝して行かれたのに・・・」という謎のひとこと。ラベンダーのサマーニットがよく似合う木下が美しい。
    「燃えないゴミ」。最近引っ越してきたという若い主婦(國枝陽子)がゴミ当番で掃除しているとゴミを捨てに近所の主婦が次々集まってきて・・・。燃やせるかもしれないけど“燃えないゴミ”もある。黒一点で妻のパンストを入れた小さなゴミを捨てにくる夫(田村元)が夫の本音を表現していて可笑しい。
    「スープの味」。妻(大西玲子)の作ったスープに「まずい!」と文句を言い続ける子供っぽい夫(林竜三)。「うまい料理を食べさせてくれると思ったから結婚したのにィ・・・」とごねることごねること。昔はこういう「結婚する理由は妻に料理を作ってもらえるから」みたいな本音を言う夫が多かったなー(笑)。
    「味噌汁の味」に文句を言う夫が多かったようだが。そのスープのレシピは妻が自分の母親に教えてもらったものらしい。妻は家を出て行く。この話には後段があって、夫が客(芝博文)にスープを振舞っている。「おいしい」と客は言う。妻の残したレシピでスープを作ったのだと言う。妻は既に亡くなったらしい。一度は夫を大嫌いになったという妻はいまは夫を再び大好きになって優しく見守っている。
    「押しかけ女房」。独身でバリバリ働く女性(木下祐子)。疲れて帰ってくると「女房」を名乗る女性(羽場睦子)が家にいる。炊事、洗濯、アイロンがけ、かいがいしく世話を焼いてくれるので、女性は不審に思いながらも、家の居心地はよい。結婚していく同僚たち。女性は上司(藤川修二)と不倫をしていた。煮え切らない男だったが、「一緒に暮らそう。女房は家を出て行ったんだ」と言う。「私の部屋の鍵を返して」と女性が言うと「家の中でなくしたと思うんだけど、なぜか鍵がみつからないんだ。女房が出て行ったころくらいから・・・」と言う。ハッとして家に帰った女性に「女房」はある想いを切々と訴える。雨がモチーフになっていて、ちょっとした怪談のようだが、凄く思い当たる部分が多い作品(笑)。キャリアウーマンとして社会で活躍する女性はよく「夫じゃなくてお嫁さん、女房がほしい」と口にするものねぇ。自分もそういう時期があったし(笑)。一方、「妻」って何?というと、この「女房」の訴えはある意味、専業主婦の本音というか、女房としてはこう言うしかないって部分がある。木下、羽場が役になりきり、とてもいい。同僚のうち、独身派の佐々木なふみがセクシーな足の組み方で「“いい女”の自信とつっぱり」を表現し、ゴールイン派の國枝が「無意識のうちにもちょっといやみな優越感を漂わせる勝ち組」を演じ、ふだんの彼女たちの役のイメージと重なって面白い。もちろん、現代は夫婦像も多様になっていろんな「女房」がいるわけだけど、ある部分、非常にこの作品はピンポイントで核に当たる部分が大きいと思った。で、男女問わず独身でありながらも家事も完璧にこなして居心地のよい「おひとりさま家庭」を作れる人もいて、こういう人は結婚しなくなる。自分の場合、その一歩手前で結婚したような気がする(笑)。
    「赤い糸」。読書好きな男(石松太一)が「赤い糸をみつけたから」と女(小瀧万梨子)から一方的に別れを告げられる。女が赤い糸をたぐり寄せると結ばれた男(芝博文)はあっさり糸を鋏でプツンと切ってしまう。唖然とする二人。
    ふられた読書好きな男のほうは、猛烈に自分の想いを伝える。本を読んでいるのはその素晴らしさを彼女にも伝えたいからだと。二人は元の鞘に収まり、このあと結婚するのかもしれない。好きな本ばかり読んでいないで、彼女にしっかり向き合わないとダメだということですな。この「読書好きな男」の言動が知人にそっくりで、悪いけど笑ってしまった。彼もこの芝居を観て恋にリベンジしてほしいと思う。
    「末永い夜」。外で転んですりむいた程度の怪我をした母を心配して集まった叔父(林竜三)や息子たち。母は叔父のことを「おじいさん」と呼んだりする。長男(田村元)は結婚しているが、次男(石松太一)三男(芝博文)は独身。三男の光男は生まれ変わりとまで言われたほど父親に生き写しだと言う。母が起きてきて、光男に夫のように話しかけ、嫁入りのときのように「初夜の挨拶」をする。戸惑う光男に、長男の妻(木下祐子)が母がいま息をひきとったと告げる。では、いまの母は?母(井上みなみ)はあくまで若い姿。人はぼけると一番幸せだったころに戻ると言うが、「霊界では一番幸せだったころの姿で生活している」という丹波哲郎の言葉を思い出した。この母もそうなのかなぁ。
    最後に「観たい!」理由の第一に挙げた國枝陽子さんについて触れさせて下さい。多少婦人では神経質だったりエキセントリックだったりするちょっと怖い女性の役が多いが、昨年客演したストロボライツの公演ではふだんと違う往年の清純派女優のようなピュアな芝居を見せた。その役でさえ、多少婦人の演出家・渡辺裕之さんが「嫌な女の役」と評したので私は戸惑ってしまったのだが(あれははたしてそういう役だったのかな、と疑問が残った)。ともあれ、この「恋女房たち」では吉田さんが彼女の資質をよく生かしてくださったうえ、オープニングの場面でスイングする彼女には多少婦人では見せたことのないチャーミングでコケティッシュな表情に驚いた。吉田さん、ありがとうございました。石井千里さんも先月、電動夏子安置システムの客演で活躍したし、多少婦人の女優さんにはどんどん他流試合で腕を磨いてほしいと私は思っている。
    照明が青年団系とは違う、でもどこかで観たような雰囲気だなと思ったら、あの内山唯美さん(劇団銀石)だったのも嬉しく、実に贅沢なお芝居でした。

    0

    2010/06/06 12:14

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大