実演鑑賞
満足度★★★
1905年2月17日、セルゲイ・アレクサンドロヴィチ、モスクワ総督暗殺事件。エス=エル(社会革命党)のテロリスト、イヴァン・カリャーエフが馬車に向かって爆弾を投擲。セルゲイ大公は当時のロシア皇帝ニコライ2世の叔父にあたる。
1917年のロシア革命に至る布石となったテロ事件。
日露戦争の最中であり、エス=エルへの資金援助は明石元二郎大佐による諜報活動の一つでもあった。
1881年父親であるロシア皇帝アレクサンドル2世も馬車による移動中、爆弾テロによって暗殺されている。
ボリス・サヴィンコフの回想録『或るテロリストの回想』を下敷きにしたほぼ実話。
舞台は帝政ロシアの反体制地下組織のアジト。セルゲイ大公暗殺計画の実行前夜。
詩人でもある優しいカリャーエフ(岩澤繭さん)
複雑な内面を吐露する恋人ドーラ(あべあゆみさん)
組織のリーダーであるアネンコフ〈モデルはボリス・サヴィンコフ〉(磯崎いなほさん)
投獄されて酷い拷問を受け、復讐に燃えているステパン(加藤翠さん)
パーマ的に髪を盛り上げているヴォワノフ(嶋木美羽さん)
後方にタイプライターを叩くカミュ的存在の長堀博士氏。メタフィクション的に現在行なわれている芝居の戯曲を書いている。
アネンコフとステパンは編み込んだ髪の毛を妙に一房だけ立たせている。
実行犯に選ばれたカリャーエフは決行の日、爆弾を投げられず帰って来る。理由は馬車に大公だけでなく甥や姪の子供達もいたから。自分の中の「正義」との葛藤。
議論議論議論、思考の闇にひたすら畝り嵌まり込む。とにかく考えざるを得ない。「革命」とは一体何なのか?人を殺す者の自己正当化に至る免罪符。他人を糾弾する者の自己に対する不安。死ぬに至る意味と価値。他人を納得させる「言葉」を見付けられなければ、自分達の軽蔑する「奴等」と同じになってしまう。
ステージ中央の折り返し階段を効果的に使用。スリムミラーを複数配置する工夫。(見えない表情が映る)。
加藤翠さんのシャープな表情が良かった。
館内に響き渡る、合図である独特なリズムのノック。
開演前、シオンのメジャーデビューシングル『俺の声』がフルで掛かる。滅茶苦茶昂揚した。
是非観に行って頂きたい。