或る女 公演情報 演劇企画集団THE・ガジラ「或る女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    チラシになっている海を沖に向かって歩く女の後ろ姿の写真(?)が美しい。空は朝焼けにも夕焼けにも見える。宣伝美術の岩野未知さんの作品だろうか。強い生命力に満ち溢れているようにももう何処にも辿り着きたくないようにも受け取れる。宗教画みたい。

    『太陽があなたを見放さないうちは、私もあなたを見放し  にはしない、水があなたのために輝くのを拒み、そうして木の葉があなたのためにひらめくのを拒まない間は、私の言葉もあなたのために輝きひらめくことを拒みはしない。』
    冒頭に飾られるホイットマンの詩。

    キリスト教を熱烈に信仰した末、棄教に至った有島武郎の実体験を元にした原作。日本のキリスト教思想の第一人者である内村鑑三。有島武郎のことを自らの後継者だと期待してさえもいた。
    今作のテーマは『神の道』と『人の道』。登場人物の誰もが心の中の神と常に向き合っている。神に己を見せつけているかの如く。
    重い鉄の扉の床ハッチ。この下は地獄に続いているのか。扉を閉めるごとに轟音が鳴り響く。ヒロイン早月葉子は吐瀉物を吐き、煙草を捨て、酒を捨て、自らもそこに堕ちてゆく。

    主演の守屋百子さんは中江有里の奥山佳恵風味の美人。多彩な表情が目まぐるしく変わり、観客の視線を捉えて離さない。少し細過ぎるか。
    MVPは勿論千葉哲也氏、それはもう仕方がない。三國連太郎緒形拳ラインのカルマを背負った邪悪な雄。こういう男の存在が日本人の原風景にどっかと在るのだろう。常にこんな男に女は抱かれていく。それが日本人の歴史。
    女中役の大嶽典子さんも存在のバランスが絶妙に良かった。

    極厚3時間、大正日本文学とがっちり組み合ってみせた。その心意気にRespect。こういう作品と真剣に向き合ったことは必ず役者達の財産になる。勿論観客にとっても。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    明治11年に生まれた佐々城信子は十代の頃、作家の国木田独歩と駆け落ち同然に結婚するも5か月で別れる。離婚後に出産した浦子は里子に。父がキリスト教系の日本の女性団体の幹事だった為、内村鑑三夫妻とも交流があった。
    明治34年米国留学中の森広と結婚が決まり、鎌倉丸に乗り込むも、船の事務長・武井勘三郎と不倫関係に。シアトルに到着するも、下船せずそのまま帰国。報知新聞が「鎌倉丸の艶聞」とした記事を連載。日本中に知られることとなる。長崎県佐世保で武井と旅館を経営する。
    明治44年、森広の友人だった有島武郎が佐々城信子をモデルにした小説を「或る女のグリンプス」という題名で連載開始。グリンプスとは一瞥した印象のこと。
    大正8年、後半を書き下ろし『或る女』と改題して刊行。鎌倉丸下船以降はほぼ創作。ヒロインの惨めな死に佐々城信子は抗議に行こうと考えたが、大正12年に有島武郎は愛人と縊死してしまった。

    有島武郎役の勝沼優氏と、その友人でありヒロインを熱烈に崇拝する婚約者役の岡田隆成氏。ここの描き込みが足りず第一幕の思惑が分かり辛かったのが残念。

    神への信仰のようにヒロインを信じ、なけなしの金を毟られていく男。彼の存在が無意味な書き割りの為、ヒロインをなじる有島武郎にも全く感情移入出来ず、同様にヒロインの良心の呵責も伝わらない。

    更に言うと演出と脚本とキャスティングと演技がどうにもちぐはぐ。所々見せ場はあるが全体を通底する音がない。原作をどう味わって戯曲化しようとしたのかもよく解らない。狙いはスカーレット・オハラか?第二幕の話自体は犯罪者の再現ドラマに過ぎず、淡々と破滅する様を見せるだけ。
    赤ん坊の泣き声やずっと隅に立ち続ける、産んですぐ里子に出した娘(桃可さん)の姿。主人公の心象風景なのだろうが効果を上げていない。思わせ振りなだけで何もないのならば逆効果。

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    2023/07/08 17:15

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