マネキンはだまってろ! 公演情報 回人回製作所「マネキンはだまってろ!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     アトリエ入口側の側壁にSサイズのワンピースが掛かっている。ホリゾント側の壁には様々なスタイルの衣装が展示されているがこちらは大人が普通に着るサイズ。但しこれらの衣装の大半は、通常の衣装の素材とは全く異なる素材が使われており、主催者の時代に対する批評意識が感じられる。実際に終演後に確かめてみることをお勧めする。華4つ☆

    ネタバレBOX

     室内は長方形で長辺に平行して4か所、ほぼ正方形の平台が置かれその対面即ち入口側の長辺に平行に観客席の椅子が並べられている。物語はデパートの展示という設定で下手から順にアメリカ、中国、日本、ロシアの順にマネキンが並ぶが各々のマネキンはこのデパートの展示を務めて10年になる女性社員が一体ずつ台車に載せたマネキンを各平台へ運び一体ずつ衣装を着けてゆく所から始まる。因みにマネキンを演じるモデルは総て人間である。LGBTQを意識してモデル選びをしている点でも如何にも流行に敏感なファッション業界の在り様を反映している。
     さて、主たる物語は四か国のマネキンがそれぞれのお国事情を反映したおしゃべりを、担当女性社員が基本的に居ない時に展開する。例えば銃社会アメリカのマネキンは一応世界最強と評される軍事力にあぐらをかいて力を基本に世界の頂点たろうとするが、歴史や食文化、映画、演劇、絵画など文化という点での歴史の欠如は他の3国に全く太刀打ちできない、とか。中国は人口の多さで中央集権的な国家運営をしなければやっていけないという事情があるが、その為には経済的にも強くなければ一丸となってことに当たれない。然も直近ではインドに人口世界一のポジションを奪われた等々。そして日本は真似ばかりして細部で更に微細な点を改良、使い勝手の良さや均一で質の高い製品を生み出してうまい汁を吸っているなど。ロシアは1年以上になるウクライナ侵攻によって若干抑え気味に描かれてはいるものの、その衣装にはたくさんのマトリョーシカがあしらわれ、どこか宇宙や哲学、或いはメタ指向を感じさせると同時に同じ衣装、同じ顔でサイズだけが異なる自同律の不快を感じさせかねない点など視覚的な部分だけを見ても面白いのだが、互いのおしゃべりの中で行われる当てこすりや相互批判は表層的ではあるものの、その分普通の人々の持っている極めて普通の感覚や判断に近い所もあって面白い。アメリカのマネキンがまとっている衣装の生地はGパンの生地だし、水鉄砲のような銃を2丁持ちやたら振り回すのも無論アメリカの銃社会への揶揄である。中国がジャイアントパンダを外交に利用したり、陸海に及ぶ一帯一路政策に名を借りて世界一を目指そうとする野心を一応「隠し」たり。日本の独自性の無さ、独立独歩の気概喪失を、本当は日本人自身が嫌いそうさせているアメリカをも内心嫌っているのだと示唆して見せる点なども面白い。ロシアについては現在ウクライナを巡って西側からは殊に顰蹙を買っている手前、あまりお国柄についての批判らしい批判はないが、その代わりの当てこすりは特に米露間で多く描かれる。この辺りの匙加減も面白い。
     一方、グローバリゼーションの世界席巻の影響で様々なコンセプトやそれぞれのお国柄は今や世界中何処に居ようとお目に掛かれ多くは入手することすら可能であることも描かれるが、それは矢張り表層に過ぎないのも事実。そしてこの事実を明確化する為には今回は描き込まれて居なかった別の側面、即ちバートランド・ラッセルが「人生についての断章」の一節で述べているように“真の美徳は真実から目をそらさぬ逞しいものであって、綺麗ごとだらけの空想ではない”ということの実例と実践をもう一つの軸として入れておくと物語自体の深さ、普遍的広がり等が表層的な事象とぶつかりあって更に高い質と知的、倫理的普遍性に根差した作品になるように思う。例として一例を挙げておくならば、第2次世界大戦終結後の1955年既に原爆のみならず水爆迄が発明され核兵器という大量破壊兵器の脅威が単に人類のみならず、地球上の生命総ての危機となっていた7月9日に発表されたラッセル・アインシュタイン宣言を嚆矢とし、パグウォッシュ会議に引き継がれ現在もその流れを絶やさすにいるこの食物連鎖最上位に位置するヒトという生き物の全生命に対する責任を今一度提起するなどだ。(ご存じの方も多いとは思うが、ラッセル・アインシュタイン宣言発表時、既にアインシュタインは亡くなっていた、同年4月18日が命日であるが、アインシュタインは亡くなる前に署名を終えていた。即ちこの宣言はアインシュタインの遺言という性質も具えていると考えてよいと思われる。)

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    2023/07/01 23:40

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