あぁ、自殺生活。 公演情報 劇団夢現舎「あぁ、自殺生活。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「自殺生活」、死と生という矛盾したタイトルに心の葛藤を見るようだ。劇中 何度も言われる「自殺力」「自殺道」にも、<力>とか<道>という前向きと思える台詞、そこに死への逡巡が観て取れる。
    会社員 頼道は中年男から ほろ苦いコーヒー牛乳をもらうが、これから死のうというのに「あぁ上手い。生きてて良かった」と言うような安堵の表情をする。

    主な登場人物は男二人…一人は会社員、もう一人は奇妙な中年男。駅ホームにいた見ず知らずの人、それが徐々に相手の心に入り込むような濃密な関係へ変転していく。

    しかし、時に史的ネタ・時事ネタが織り込まれ蘊蓄・問題意識を喚起するが、これが卑近すぎて興ざめし冗長にも感じられたことが憾み。不条理に道理が入り込み違和感のような。出来れば あり触れた世相等を排除し、二人だけの距離感・空気感、そんな独特の世界観に浸りたかった。
    (上演時間1時間35分)

    ネタバレBOX

    舞台装置は、暗幕で囲い 中央奥に大きな風景墨絵が3枚吊るされ、白い形状の異なる椅子が3つ。シンプルだが、中央・上手・下手へ配置を変えることで情景に変化をつける。因みに椅子の形状が異なるのは、人に準えて個性・特徴を表しているかのよう。

    電車が近づき 駅ホームからフラフラと線路へ向かう会社員 頼道(山田哲郎サン)、近くにいた男(益田喜晴サン)が自殺を止めるかのように割って入る。男は「自殺許可書」を持っているかと尋ねる。頼道は自殺するのに誰かの許可が必要なのか、死ぬことすら儘ならないのかと訝しがる。男 曰く、多くの駅関係者に迷惑をかけ、特に運転手は罪の意識に苛まれ、これから生きていくのに支障がでるのだ と。

    頼道は、融通が利かず 生きるのが不器用な人間、会社では無視され苛められている。道に外れないように生きてきた、その真っ当さが時に不自由で息苦しくなる。意を決して自殺を図るが、男に阻まれ決意が凋む。いや阻むというよりは、自殺幇助するかのように励ますが、そうすると逆に自殺し辛くなってしまう。
    一方、男は呆けが怖い。爺さんも父さんもボケて みっともない姿になった。どうしょうもない恐怖、死にたい思いと必死に戦っている。頼道は、男に対して不思議な感情を覚え<あんたがいないと生きていけない>と哀願するような表情が可笑しい。

    男は「どんなに人生が不条理だろうとそれを恨むな。人間はゼロのように孤独で野良犬のように一人なのさ。」と不可解な哲学論めいたことを言う。また、自殺は他殺だと言う。意味不明の理屈だが、自殺するにはそれなりの理由・原因があり、追い込まれたからなのだ。頼道は、会社で苛められ 孤立し誰からも話しかけられない。男は頼道のそんな孤独を癒すかのように話を聞き持論を展開する。

    人は何らかの意思表示をし、寂寥や退屈、物足りなさ、不愉快さを消している。頼道は男に親近感を抱き、友情が芽生えだしたかのような錯覚を覚える。だから頼道は<あんたが居ないとダメなんだ>と心の中で叫ぶよう。人と人との繫がりが稀薄になってるからこそ心に響く光景だ。

    脚本と相俟った演出…男の身悶える姿、それを朱色の照明が妖しく照らし、恍惚とした表情が何とも艶めかしい。音響は列車への飛び込み自殺であるから、遠くで轟音が響く。シンプルな舞台装置に効果的な照明と音響、その調和は見事だ。因みにブレーキ音は聞こえなかったような…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/06/29 07:15

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