雨の世界 公演情報 SPIRAL MOON「雨の世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     月組を拝見。梅雨の真っ最中に雨に纏わる話の上演だが、今作には他にも洒落が幾つか入っている。それは今作の物語が展開する屋敷の主の苗字であるが、他にもこの家主の家系とは反対の役割を演じていた旧家の苗字にも言えることで、ネタバレで少し苗字についても述べることにする。が、反対の役割を果たしていた旧家の苗字に関しては予想して楽しんでも貰いたい。(追記6.18、楽日だから自分の解釈を述べた)

    ネタバレBOX


     オープニングでは、激しい風雨と雷の中を女が一人。傘は風に煽られおちょこになったり吹き飛ばされそうになったり。遂には差すことを諦めざるを得ない。と、山中に一軒の家を発見。女は助けを求める。激しい風雨と雷鳴もあって家主は中々現れないが、この間、嵐に揉まれる避難者の様子や、傘の幾重にも亘る変形、激しい雷雨と強風の有様を板上に描かれた文様と照明、音響で見事に表現している。無論、シーンが変わればこの板上の文様は室内のカーペットとして機能し、そのどちらにも極めて自然に溶け込んでそのように見える文様を用いている点にも演出の優れた美意識が見て取れる。
     本筋に入っての展開は異常気象の影響なども少々挟みつつ、幸子としおりの対話を中心に展開するが、その話の中で、こんな嵐の中女独りで出掛けたしおりの事情を幸子が推理、幸子の推理は鋭くしおりの抱えている問題も明らかになり、今作の主題・雨に纏わる幸子と姉、福子の宿命が描かれてゆく。(ここにも姉妹の名で洒落が入っている)先に述べておいた幸子・福子姉妹の苗字を挙げておこう。エビフライ(表記は不明)である。某地方の旧家であるが農耕が産業の中心であった頃、日照りの際に雨乞いをして雨を降らせる家系の末裔なのである。反対に長雨などの際、好天を齎す家もありその家と共に両家は村人から尊ばれ“ひじり”と称されていたが漢字表記は“聖”ではなく“日知”と記す。何れにせよ村の旧家でそれぞれ大きな屋敷を構えていた。その家系に生まれた姉妹は巫女的なDNAを持っているということなのか、二人揃って所謂“雨女”である。殊にハレとケに関してはハレの時に限って雨を降らせやすい。子供の時からそんな宿命を背負った姉妹は皆が楽しみにしている運動会や祭り、ハイキングや修学旅行等々に必ず雨を降らせてしまう。そんなこともあり鬱陶しがられるようになる。然も姉は子供の頃から教師志望、実際に小学校教諭となり担任も任されるようになっていたが、修学旅行のある上級生は受け持たず、運動会などイベントの際は休暇を取って子供たちの楽しみに水を差さないように配慮してきた。然し担当を外されてしまった。子供好きの姉にとっては大変なショックでその後も示唆されているが、幸子は幸子で幼馴染四人組の男の子、健一郎に憧れていて、思春期に矢張り四人組内の親友・カミーユに彼を取られてしまった。カミーユは、幸子に健一郎が好きだということを既に知らせてはいたので「裏切り」には当たるまいが幸子は落ち込み、直接健一郎に念を打ち明ける、然し結果は“雨女だからダメ”という拒否であった。この姉妹の雨女という宿命に対する態度は形としては可成り異なる。姉は気丈に明るく振舞おうと努力し続け一見アグレッシブで明るい優等生と映るが、一旦ことが起こると挫折しポキンと折れてしまうことを自覚しており、実際そのように行動する。が、妹の方は悔しさや宿命のどうしようもなさは面白くないもののその宿命と何とか折り合いを付けつつ一見ディフェンシブであるようにもパッシブであるようにも見える。その生き方が現実の齎す有難くはない宿命を現象学者のように観察し、どこか距離を置くことで生き延びるような靭さを秘めていると感じさせる。この姉妹の性格の差が、姉の背負った宿命が齎したと察せられる結末と妹のそれとを分け、その余韻が残っている状態でラストに繋がるのだが、しおりがホリゾントに掛かった黒幕を若干開けると、鈍色の外界が見える。このセンスの良さ! は格別である。

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    2023/06/15 18:16

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  • 皆さま
    楽ですね。追記で解釈を述べておきました。
    姉妹の性格の差の質が、がちがちの闘争に
    ならない点に観客が強く引き込まれにくい原因が
    あるように思います。然し、これも時代に対する
    態度の一つ、自分の頭で考えながら創作している作品で
    あることの証明だと思います。まずは、終演後は良い気晴らしを。
                            ハンダラ 拝

    2023/06/18 17:38

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