初老の血 公演情報 劇団 枕返し「初老の血」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

     タイトルに惹かれて観に行ったのだが

    ネタバレBOX

    三十歳が節目として意識されることは当然としても、これだけ寿命の延びた現代日本で三十台半ばで初老を意識するというのは実際の爺になった自分からみると奇妙な感じがする。それよりハイティーンから二十歳そこそこの若者が自らを老人と感じる感覚の方が遥かに自然である。というのも既に高卒以上が当たり前になった日本で、若者とは=老人であるのは必然だからである。独自体験や己自身の力で獲得した形質など無いに等しく唯DNAとありきたりの教育とで育成された「個々人」に真の意味で新たな、若者などの言葉が当て嵌まる訳がないからだ。恐らく今作の作家は思春期にこのような発想を持った経験も無いと思われる。
     というのも、脚本は様々な要素を持つものの、芯になって他の要素をぐいぐい引っ張り観客を惹きつけて止まない力強さが無い為、締りがないからである。原因は、真に深い悩み方をしたことが無いからではないか? どこか、教科書的で毒も危険な雰囲気も無い。劇団名から推し量れるように妖怪が好きな作家なのであろう。実際に今作でも妖怪が登場するが、障害のある妖怪である。それで生まれてこの方、自己肯定することさえ難しかった。この話だけで一作書けるほど深刻な問題なのだが掘り下げが浅い。妖怪といえば水木しげる、というほど現在の日本に妖怪ブームを巻き起こした水木氏は第2次大戦中、生死の境を彷徨いご存じの通り、腕の一部を失くした。その彼が発表した「墓場の鬼太郎」の初期バージョンは、極めておどろおどろしい作品であった。本来妖怪が登場する世界とは、夜になればおどろおどろしい闇に覆われ足元すらおぼつかないような生活の中で、夜行の際、人々は風の音や、梟の鳴き声、獣の吐息や遠吠え等々に怯えつつ夜道を行き交う(できれば夜道は避けた、日の暮れぬうちに宿や家に帰りつくよう生活していた)他なかった。そしてその怯えこそが妖怪や幽霊を生む心理的要素だったわけだ。然し今作では照明がそのような使われ方をしていなかった点でも、不気味の齎す緊張感が低かった。この辺り、演出をキチンと考えるべきであろう。
     また物語は、とある居酒屋に対立するやくざ同士が常連として来ているというシチュエイションになっているが、そんなことは普通あり得ない。そのシチュエイションで作るならもっと喜劇的に作劇する必要があろう。とはいえ、良い台詞も幾つかあった。赤組二代目組長の台詞に「やくざというのは、どこにも行き場の無い者たちの最後の居場所なんだ」という意味のことを言った台詞と同じ赤組三代目が「誰一人欠けちゃいけない」と言った台詞だ。
     劇作家には、思いを劇化するにあたり、どんなタイプの劇にするのか(ex.悲劇、喜劇など)作品の展開する場所を良く考え、その場所ならば必然的に展開が自然に見えるような状況設定を心掛けて脚本化すると同時にメインストリームとサブストリームの適・不適、諸構成を更に磨いて貰いたい。

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    2023/06/11 21:59

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