風景 公演情報 劇団普通「風景」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    避けて通れない現実の澱のようなものが無限に込められた、まさしく「風景」劇。
    祖父の葬儀に親戚が集まり、それぞれの近況などを語り合う光景が淡々と紡がれ…。劇の特徴は 全編茨城弁で、必ず相づちか同意を求めるかのような その繰り返しの ゆったりとした間(ま)と 伏し目がちに遠くを見るような表情。一見 無感情・無表情のように思えるが、話の内容は結婚・出産・子育て・跡継ぎ・老後、そして老親の面倒を誰がみるか、といった暮らしに付きまとうもの(普通の「風景」)。

    必ずしも欲深い、遺産相続的なものではないが 心の奥を抉るような不気味さを感じる。喪主を父か叔父、その兄弟のどちらが務めるか。結局 親の面倒を見てきた弟の叔父が務め、遺品の整理(処分)まで行う。親戚の中には、高価なモノはいらないが、せめて思い出となる形見分けはしてほしかった と呟く。

    何年後かの 墓参り。喪主を務めた叔父は、親戚が参るであろう盆の日に行かない。会う気まずさより、孤独を選ぶといった頑なさ。墓参りに行かなくても、心の中では いつも思い出している、と強がりを言う。家族・親族といっても だんだんと疎遠になっていく寂しさ。何か(大きな)出来事が起きるわけでもなく、淡々と過ぎ行く日々が…。
    (上演時間2時間10分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、上手に座卓、下手にテーブルと椅子、後ろに壁といった ごく普通の光景。情景に応じて壁が少し動くが、その場面に紡がれる内容と連動しているかのよう。上手と下手は場所は勿論 時の経過といった違いを表している。その切り替えは、照明の薄明・暗で巧く変化させる。

    下手での風景、祖父の葬儀のために帰省している娘 由紀(安川まりサン)と両親の取り留めのない会話。母(坂倉奈津子サン)が座っている後ろを父(用松亮サン)が通ろうとするが、壁があり狭くて通れない。由紀が思わず母に椅子を動かすようにと(親近・親密さ?)。
    上手の風景へ移り、祖父の葬儀に集まった親戚一同…孫(従妹同士)とその配偶者、そして喪主を務めた叔父 利夫(浅井浩介サン)とその息子 蒼太(岡部ひろきサン)を交えた近況話。壁の左右の広がり方が違い 少し歪になった感じ。

    壁が全体的に後ろに動き、空間的な広がりが出来る。祖父が存命の時には集まっていた実家、しかし今では叔父 利夫の家に親戚は集まらない。蒼太が孤老の父に向って(葬儀以来)従兄姉に会っていない と零す。
    会話の内容が壁の動き、その空間的な広がり(距離=疎遠)にリンクしているような、勝手に解釈しながら観る楽しさ。そして上手 下手の明暗する照明によって場所と時間が動くが、それがどこまで隔たっているのか 定かではない。

    母が由紀に子を産まないのか、と やんわりと問う。由紀には由紀の考えがあり、母は娘の将来もしくは世間体を気にしているのかも知れない。先々 1人は寂しいといった台詞が独居老人を連想させ、もっと卑近には少子化といった問題が見え隠れする。その母娘の微妙な、そして気まずい緊張感が漂ってくる。茨城弁だが、全国のどこにでもあるような、<風景>が浮き上がってくる。

    由紀が祖父とだけ共有した思い出…祖父の兄夫婦には子がいなかった、そして「ピアノの手だね」には、子がいない淋しさ、弟(祖父)の孫娘への優しい言葉掛けのように聞こえるのだが…。淡々とした語りの中に 滋味溢れるような感情。長年寄り添った夫婦ー父と母のそれぞれの「余計なことを…」と言った とぼけた会話の絶妙〈珍妙〉さが笑いを誘う。そして兄 広也(岩瀬亮サン)や由紀との親子会話が実にリアルで〈日常風景〉そのものだ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/06/06 18:12

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