Wの非劇 公演情報 劇団チャリT企画「Wの非劇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    タイムリーな時事<闇か病>ネタを笑い飛ばすような描き方、しかし その核心は鋭く突き かつ多面的だ。タイトル「Wの非劇」は1980年代にヒットした映画「Wの悲劇」を連想させ、一見 劇構成は準えている様に思えたが、本作ではインターネットやチャットGPT等 現代的な要素を盛り込み、その功罪までを問う幅広さ。勿論タイトルに込めた思いは劇中で明かされるが、演劇という虚構性を逆手にとって今 現実を痛烈に皮肉る内容に驚かされる。

    本「Wの非劇」は説明にある性の被害者が別の意味で加害者になり、事がうやむやになろうとする。それは芸能(事務所)界だけではなく、市民が時々の風潮に乗じて誹謗中傷することで更に真実が分からなくなる。性の被害は女性だけではなく男性も、それを現実のJ事務所を連想させるジョニーエンターテイメントの新人合宿所の場面で暴く。

    映画「Wの悲劇」は、映画の中で上演されている舞台劇の原作という設定であるが、本作のラストは別の映画を思わせるといった凝りようだ。どのように収束させるのか と思っていたが、お~そう来たかと思わず笑ってしまった。いや それまでも笑っていたが 、やはりラストは秀逸であった。
    (上演時間1時間35分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、家屋の外観をイメージさせる枠囲い、その中に白線があり 椅子4つが横並びしているシンプルなもの。

    芸能事務所ウィンプロダクションの若手女優・翔子が先輩女優・鮎川美登莉にセクハラの相談をしている。今売れっ子の映画監督・谷山謙吾(ジョニーエンターテイメント)、彼から知らないうちにホテルに連れ込まれたと。美登莉は怒り訴えるべきだと息巻く。が ウィンプロダクションは別の思惑もあり穏便に済ませたいらしい。現実でも、今世間の注目を集めるJ事務所を彷彿とさせ、今まで闇に潜んでいた問題が次々に表面化している。そんな話題性を舞台にして面白可笑しく描きながらも、問題の<芯>を曖昧にしない骨太さ。

    しかし、翔子が学生の頃 クラスメイトを苛め自殺に追い込んだことが発覚し、立場は一転する。もう何年も前のことだが、AIを駆使すれば触れられたくない 過去も暴かれるというネット社会に驚きと怖さを感じる。が、苛めがあったは 捏造された情報操作のようで ジョニーエンターテイメントの差し金のよう。タイトル「Wの非劇」は、性の被害とネットの中傷というWの「非劇」を表す。映画は 薬師丸ひろ子の主演で話題になったが、彼女の代表作「セーラー服と機関銃」のシーンもオマージユとして挿入する。もっとも悲劇は<心>がない「非劇」であり、そこには人が介在する場所がないリアルなドラマがある。現実社会と虚構(嘘)の演劇世界、その両面を融合させた物語だが、単なる演劇手法としてのパロディではなく、チャリT企画らしいオリジナル秀作。

    人の本性は状況によって豹変する、それが芸能界だと殊更納得してしまう。メディアに晒されている割にはその実態が分からない。物語は、その不透明感ある世界を覗いて悦に浸る野次馬根性のような、その興味を惹かせる上手さ。同時に現実のタイムリーな話題性と相俟っているから なおさらだろう。色々な問題シーンを点描しながら、どう決着をつけるのか。ラスト「ハイ、カッート。お疲れさま」の掛け声、登場人物が舞台上に勢揃いしホッとした表情は、この物語全体が映画の撮影か何かのよう。敢えて言えば、映画「蒲田行進曲」さながらの劇中劇。まさに演劇という虚構性ーアナログを最大限に活かした結末、何とも洒落た…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/05/21 07:34

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