実演鑑賞
満足度★★
鑑賞日2023/05/15 (月)
「壱ce a week」は「ワンス・ア・ウイーク」と読ませるらしい。
劇団壱劇屋東京支部にて作演出を務める竹村晋太朗によるワークショップで、稽古は週に一度だけの9回の稽古を経た14名が、竹村晋太朗完全書き下ろしの短編殺陣芝居を演じるのだという。
あの壱劇屋のワークショップだからと多少期待はしていたのだが、あまりのレベルの低さに唖然とした。説明には14名(全員が女性)を劇団員と書かれているが、これで劇団とは烏滸がましい。無料カンパ制だったので金銭的な損失は劇場までの交通費だけとはいえど、はっきり言って時間の無駄だった。
素舞台の中央奥に平台が13枚積み上げられているのみ。
上演時間は本編35分。
壱劇屋の男優による説明の他は一切台詞なし。35分のほとんどが、ただただ殺陣である。なぜ戦っているのか、これらの登場人物にどういう背景があるのか、一切わからない。
なのに、その要である殺陣がまるでなっていない。一部の者にはアクションシーンでもその表情に真剣さがうかがえない。次の動作がどうだったか、それしか考えていないようにもみえる。だから、殺陣にスピードや迫力が全く感じられず、相手とのタイミングがズレているのも散見される。
殺陣といっても、刀を大振りに振り回しているだけだが、基本がなっておらず、腰が入っている者は皆無で、あれでは人を斬ったりはできない。
抜身の刀を鞘に入っていると見立てているのだが、その刀を抜く身振りでまず鯉口を切っている者もいない。日本刀はまず鯉口を切らなければ容易に抜けはしないのだ。
それに真剣は竹刀や木刀と違って重いのだ。ああも大振りを続けていてはすぐに疲れてしまうし、第一、あんなに派手に打ち合っていては、余程の名刀ででもない限り、すぐに刃毀れして斬れなくなるか、折れてしまう。映画「七人の侍」での野武士との雨中での乱闘シーンで、何本もの刀を土に突き刺しておいて取っ換え引ッ換えしているのはそういう理由からだ。
一番小さい女性は斬りかかってくる相手の刀を両前腕部で受けることを何度もやっていたが、手首から肘までは素肌で何の防具も付けていなかった。だったら刀を受け止めるどころか切断されてしまうだろう。
それから両手を振って歩く者が何人もいたが、武士というのは両手を振って歩いたりしない。なぜなら振った右腕が後ろにある時にいきなり斬りかかられたら刀を抜くのが遅れてしまう。だから武士は平時でも普段から手を振って歩かないように心がけていたのだ。竹村晋太朗は殺陣のみならずそういう基礎的なことも教えられないのか。であれば時代劇のワークショップなど止めるべきだろう。いかに参加者がズブの素人だろうと、「壱劇屋がやって(教えて)いるのだから、これでいいのだろう」などと演者(参加者)や客が思うようになったら、きちんとした時代劇の伝承にとって疎外要因でしかない。時代劇を上演するというのは、そういう責任も負っているのだ。時代絵巻 AsHなどの上演姿勢を学ぶべきだろう。
本編が終わってすぐに参加者個々人の感想や感謝の言葉が述べられ、修了(卒団)証書の授与があるのだが、これが本編とほぼ同じ時間かかるのに、本編だけ観て退出はできないようにされていた。本編だけでウンザリしていた身としては全く関心が持てず苦痛でしかない。通常の公演なら本編とアフターイベントの間には興味ない人間が退出できるように時間が設けられているのに、WS参加者の家族や友人でもないのに、そういったものに無理やり付き合わされてはかなわない。
昨年、劇団チョコレートケーキ初のワークショップは無料で半年間実施され、その参加者のみによる上演を含めた公演が読売演劇大賞の大賞と最優秀作品賞を受賞したし、仲代達矢は主宰する無名塾に一旦採用したとしても3ケ月経っても見込みのない者は辞めさせたという。それが本人にとっても演劇界にとってもいいのだという信念なのだそうだ。
WSでも見込みのない者は板の上に立たせない、そういう厳しさも必要だろう。壱劇屋のWS公演からはそういった「演劇人を育てよう」という気持ちなど微塵も感じ取れなかった。むしろズブの素人相手にきちんとした時代劇を指導できなかったという点では一層罪は重い。「型破り」というのはまず「型」を学んでそれを身につけた者がやることだ。