実演鑑賞
満足度★★★★★
泉鏡花のこの怪異譚は、古人の知恵に耳を貸さない近代人(とくに成金とえせ権力者)の愚かさと、愛に身を捨てる男女の献身との対比を描いたもの。原作のセリフにない大破局のスペクタクルを、ステージングのダンスとサウンドと、すべてを飲み込む大山嘯で描いて、圧巻の舞台だった。
山奥で朝に夕に鐘をつく老夫婦(勝地涼、瀧内公美)の静かな生活から幕を開け、そこに旅の途中の学者・学円が通りかかり、因縁話が明らかになる。老夫婦は実は若く、白髪頭はかつら。夫は3年前行方不明になった伯爵家の三男の萩原だった。この村では700年来の竜神との約束で、明け六つと暮れ六つと丑三つ時の日に三度、鐘を突かないと、夜叉が池の竜神があばれてふもとの村々を湖にしてしまうという。その鐘撞の老人が倒れたのに、たまたま居合わせた萩原が後を継いだというのだ……。これが話の導入。
萩原と学園が夜中に夜叉が池を見に去ると、夜叉が池の鯉と蟹五郎に続いて、龍姫の白雪姫(那須凛)があらわれ、遠く離れた剣ヶ峰の千蛇が池の主への恋のために、村を見捨てて、自由に飛んでいきたいとわがままを言う。乳母が懸命に止めるが、姫は聞かず……。
静かにわびしく始まって、じわっじわっと緊張を高め、最後は予想もしなかった悲劇で、ダイナミックなカタルシスを実現する。多数の俳優・ダンサーたちのつくりだす夢幻のひと時であった。。
青年座の那須凛は私の好きな女優だが、狂おしい竜神の姫を演じて見事だった。腹黒代議士の山本亨は、帽子は宮沢賢治のようなのに、白塗りの顔に三つ揃えはヤマネコ博士のようで、ふてぶてしい俗人ぶりが迫力あった。