Do!太宰 公演情報 ブルドッキングヘッドロック「Do!太宰」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    細かいエピソードがうねり、大きな物語を作り上げた
    様々なエピソードは、物語の縦糸や横糸で、ちょっとだけ視線を離すと、そこには俳優たちや舞台装置などがきらきら輝く、大きなタペストリーが出来上がっていた。
    そんな舞台だった。

    大人数の出演者がいて、さらに彼らが何役も、役名のある登場人物を演じる。
    そして、ダイナミックで奥行きのある舞台装置と、その転換、さらに物語の構成と演出は素晴らしい。

    息の飲んで見入ってしまった。
    激しい台詞のやり取りはない。むしろ、柔軟さのようなものを感じた。
    ユーモアもあるし。

    そして、この舞台は、10周年を迎えた、劇団、というより、そこにうごめく個々人の「表現者」としての宣言でもあったように思えた

    ネタバレBOX

    女の間を行き来し、それを題材として、最後には自らの命を絶つ男。派遣会社の御曹司で、脚本家、小説家として名前が売れてきた男。売れない役者の男。小説を書くと言っては挫折し、映画を撮ると言っては挫折し、舞台の台本を書くと言っては挫折する男。路上ライブをする売れない男。そんな男たちのエピソードが、太宰の作品からの引用と、ブルドッキングヘッドロック自体の過去の作品の引用を散りばめながら進んで行く。

    その根幹にある太い幹は、「表現者」だ。
    「表現すること」とは、食べて排泄することと同じであり、極めて自然なことであり、やめることもできない。
    食べるのは自分の人生であったり、自分とかかわってきた者たちの人生でもある。そして、排泄される表現物は、強い臭いを放ち、ときには自らも傷つける。

    「なぜやるのか」との問いに対しては「やりたいから」というシンプルな答えしかなく、それはストレートな真実である。それ以上のものは存在しない。

    彼ら表現者たちの苦悩は、「表現することの苦悩」と言ってしまえば、それまでである。
    しかし、その「苦悩」は、彼らの「夢」でもある。夢の中に苦悩があり、苦悩と夢は一体でもある。その夢と苦悩の中で、永遠にもがくのだ。

    表現することは、その排泄物が残るにせよ、残らないにせよ、無間地獄でもある。どこにも到達できる安住の地はない。
    だから、結局何も「表現物」として、生み出す(というより排泄する)ことがなかったとしても、排泄することに苦悩する限り「表現者」である。


    表現者としてのレベルはどんな者も同じだ。苦悩の意味が違っていても。
    それは例えば、「それをやっていても食えない」ということでも「ネタがない」ということでも「自分の思い通りにならない」ということでも同じだ。
    単に、現時点での社会の評価が違うだけだ。


    その点、舞台に現れる女たちは違う。
    とても魅力的に見えてくる。どの女性も魅力的だ。
    女性は強い。そして、優しい。根を大地に張っている。
    包み込むような慈愛がある。

    男たちは、その女性に求め、女性はそれに応えてくれる。
    応え方は、いろいろだ。
    従順に従うだけでなく、責めたり、なじったりもする。しかし、それは愛でもある。

    どうも、男女間の関係や、その「役割」のようなものに、作者の気持ちが表れているようにしか思えない。「夢を追うのは男」で、それを「見守るのが女」というような。それは、願望なのか、夢なのか、希望なのか。

    ラストに戦争が起こり、自分以外の表現者たちが死んでしまえばいいのに、と思う醜い心もさらけ出す。これはある意味本音だろう。でも現実ではない。それももちろん理解している。
    テストの前の日に、学校が火事になってしまえばいいのに、と思ったとしても現実にはそんなことが起こらないようにだ。

    自分の夢を諦めず進んで行く姿は美しくはないかもしれない。そして、彼らを励ます舞台ではないかもしれない。
    ただし、「今、そのまっただ中にある」自分たちの10年とこれから先の「表現者」としての未来を見据え、それでも、だからこそ「排泄するように」そして、「やりたいからやる」という自然で、当然な行為を、終わりのない(死んでからも終わりのない)無間地獄の中で、続けていくという宣言が込められているのだろうと受け取った。

    1つだけ注文をつけるとしたら、ブルドッキングヘッドロックの過去の作品に関するエピソードの紹介についてである。
    これは、劇団と一緒に歴史を歩んできたファンにとっては、とても面白いものだっただろうと思う。
    私のように歴史の浅い者にとっては、さほどの感動も感傷もなく、ただ見ただけ。
    10周年ということで、是非ともそんなことも盛り込みたかったという、自己満足、自己愛(劇団LOVE)は理解できるが、引用は太宰だけで十分だったのではないだろうか。そんな気がした。

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    2010/05/22 08:33

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