エンジェルス・イン・アメリカ【兵庫公演中止】 公演情報 新国立劇場「エンジェルス・イン・アメリカ【兵庫公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    実在したロイ・コーンの人物の強烈さがこの芝居の柱で、彼がいなければ面白さは半減しただろう。ロイはソ連のスパイとしてローゼンバーグ夫妻(舞台では妻のエレナだけ出てくる)を電気椅子に送り、マッカーシーの赤狩りを裏で支え、悪徳弁護士として力を振るった。しかも同性愛者であることを隠し、エイズになったあとも肝臓がんと偽り通した。そのふてぶてしさ、アクの強さを山西惇が怪演。良識派弁護士たちの訴追と戦い、エイズで入院したあとも、大統領の側近を脅して特効薬を独り占めして、生への執着を示す。エレナの幽霊が出てきても、なんの反省もない。死のギリギリまで人を騙して「勝った、勝った」と喜ぶ。史実ではロイは59歳で死んだというから、若い!!。

    もうひとりのエイズ患者・プライアー(岩永達也)と、恋人のルイス(ルー、長村航希)はリベラル(民主党)を標榜し、反共で保守で同性愛・人種差別主義の共和党嫌い。しかし、ロイ・コーンの存在感にはかなわない。リベラルは言葉だけで実態が薄い。出てくる男5人はみな同性愛者で、女3人は情緒不安定の精神安定剤中毒者と、堅物のモルモン教徒と、天使!! なんという偏った世界!!。でもその極端さが面白い。

    情緒不安定のハーパー(鈴木杏)とプライアーが夢で交感する場面と、モルモンのビジターセンターのマネキンが動き出す場面が、ロイ・コーンについでおもしろい。そして天使(水夏希)が、ワルキューレのような鎧と羽根の衣装で、羽根を羽ばたかせる宙吊りシーンで楽しませてくれる。こうしたユーモアとファンタジーを除けば、ホモたちの三角四角関係の愛と裏切りと、自責と献身の劇にすぎない。

    午後第一部、夜第二部の土曜日公園を観劇。美術も音楽も作り込まれた、贅沢な7時間半だった。

    ネタバレBOX

    エイズの感染拡大とレーガンの保守主義のアメリカだけでなく、ソ連のペレストロイカとベルリンの壁崩壊も言及される。第二部冒頭に、ソ連の大会で語る、古参ボルシェビキのシーンがあることは、世界全てに及ぶような広がりを示す。彼は「レーニンの時代には普遍的で革命的な理論があった」「子どもたちよ、理論を」と訴えるのだが。第二部の幕切れで、登場人物たちは「人間の動きのほうが早い。理論を待ってはいられなかった」と語る。

    天使が預言として託す「立ち止まれ」「動くな」は、アイロニーだろう。作者が本当にそれを訴えているとは思えない。天使の保守主義を乗り越えて、人類(アメリカ)の前進と変化に期待していると思う。
    第二部の終わりでは「失ったら、失いっぱなしというのはありえない」「世界は前に進んでいる」「(観客に向かって)あなた達は素晴らしい」と、かなりメッセージを強く押し出す。第二部の最後のせりふは「大いなる想像が始まる」。第一部の天使の言葉と同じだ。

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    2023/04/22 23:30

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