ブレイキング・ザ・コード 公演情報 ゴーチ・ブラザーズ「ブレイキング・ザ・コード」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    チューリングを扱った映画を何年か前に観たが、舞台だと「コペンハーゲン」のような高尚な科学・哲学論議が展開されるか・・と予想して見始めたのだが、予断を持ったせいか、焦点がぼやけて構図が今一つ見えて来なかった(例によって眠い体だったせいもあるか、「ダウト」で見せた凄絶な亀田佳明を期待し過ぎたか、あるいは公演序盤でまだ舞台が熟していなかったから?・・どちらにせよ疲労は頭を固く鈍くするのでそのせいだろうと言えてしまいそうでもある)。

    ドイツのエニグマ暗号の解読で第二次大戦での勝利に貢献した栄光の過去(欧州では終局までドイツと対峙したのは英国)と、同性愛者である事による不遇と死という後半生。この両者を、恐らくこの作品は華美な修飾を施さず、チューリングの主観に沿った等身大のそれとして描こうとした、のではないか。
    だがそうする事により、「別にチューリングでなくてもいい」物語と見えなくもない、というのが正直な感想だ。日本ではさほど知られていない人物であるだけに、「今なぜチューリングか」の問いが最後まで残った。
    断片的には役者の存在感により生き生きと場面は立ち上がっていたのだが。(存外、見返してみれば見落とした細部が埋まって印象は真反対、という事もあり得るが。。)

    ネタバレBOX

    二幕の冒頭、チューリングが大学でだろうか、聴衆に対してコンピューター技術ひいては科学の発展について語る場面がある。現代にあやかって「AI」の語が入っていた。台詞は、科学の進歩があらゆる事を可能にする、「コンピューターは何でもできる」、とチューリングは言う。(当時の聴衆はきっと目を輝かせていた事だろう・・。)
    「あれもできる、これもできる、あんな事も、こんな事も・・」とカウントし、「できない事はない」と言いきる言辞は、勿論「現在の事実」ではなく、実際にはコンピューターに「できない事」は無限にある訳で、この言葉が成立するのは、科学・技術が新たな地平を切り開き、人類に新たな風景を見せて行く「進歩の先の未来」への信頼であった。
    作品上の問題は、この演説を科学への無垢な信頼の生きていた過去のものと描くか、現在を重ねられるものとして描くか、だ。「過去の人」チューリングを突き放して描く方法も演劇にはあるが、客席に語り掛けるこの台詞の中に「AI」を含めたという事は、後者を選んだ訳である。「今ならチューリングはこう言うかも?」と今に寄せた。そこに噛み合わせの悪さを感じたのである。科学への全幅の信頼を抱く人など現代では希少だろう。チューリングの言葉が浮いて聞こえる。(実はチューリングは講演反語的に「何でもできる」と言っていたのかも?何せ疲れて感性鈍磨であったので..)

    それはともかく、科学への疑義があっても、AIや遺伝子技術に人類は手を染める。探求への最大の原動力は、推進力はかつては戦争であったろうが(今もある面でそうなのだろうが)、今は商売へのモチベーションだろう。(大学「改革」なるものは国防をモチベーション発動の装置としようとするものなのかも..とすれば安直にすぎる。)
    技術は人を助けるが、ネガティブな面は無視できない。例えば・・農業が大資本の手に渡り、種ができない作物の種が開発され、これを毎年買わされる農家との従属関係により、定額収入を生むシステムを資本は手にする。
    特定の除草剤に強い(雑草だけが死ぬ)穀物とか、ブロイラー、やがては昆虫食もビッグビジネスの対象となるのかも知れぬ(その種蒔きが日本でも盛んだ)。

    中小の企業体や個人店舗を淘汰し、刈り上げて更地にし、あるいは束ねて売りに出す。取引相手は外資か、大企業か、どちらにしても政治家が「恩を売れる」パッケージ作りは、大きなモチベーションを伴いそうである。孤独な彼らを企業は笑顔で迎えてくれるのだ。
    今や古いと言われ、トリクルダウンなど起きない事はほぼ周知で、米国と日本以外に見向きもしない「新自由主義」。その亜種が経済特区、都構想(という名のスーパーシティ構想)、元を手繰れば規制緩和、公務員削減、民営化。途上国政権(開発独裁)の最後の頼みが、海外資本を入れるカンフル剤だが代わりに様々な犠牲を差し出す。これに加えて日本では指導者の関心が政治体制の維持、また己の政治生命維持にしかない事が、「外」からの視線には明白なのだが・・
    吉村氏の「大阪の改革を全国に」など時代錯誤も甚だしい。
    真っ当かそうでないかを判別する一つには例えば、水道民営化を「あり」と発想できてしまうかどうか。民営化の代償に「何」を得ようとしているか、言語化できるならしてみるがいい。

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    2023/04/14 00:20

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