実演鑑賞
満足度★★★★
こちらも楽しみにしていた公演。赤信号はかつてのお笑いブーム(たけし・さんまの頃?)での朧げな記憶しかないが、自分には演劇の方で認知した小宮氏、ラサール氏に、桑原女史の作演出に垂涎。フタを開けると、まずリーダー(渡辺)の「へたくそか」とヤジ(好意的)を飛ばしたくなる佇まいから、これは赤信号の自分祭り企画であったなと認識。(二日目であったので小慣れなさも考慮すべきか?)
客席から見ても数個のミスがあり、それも含めて楽しい舞台ではあった。この日の一番は、芝居の後半、大学教授役の渡辺氏がかつての「恋人」室井氏と二人になる場面。少し背景を言えば、大学に入学して来て自分のゼミに入った青年が室井の息子であると知り、そして今日彼女が二十数年ぶりに会いに来ると聞いてかねて疑っていた「彼は渡辺の実の子かも知れない」件を告げに来たのでは、とあたふたしている。その伏線あっての、二人の場面。二人を精神的に結びつけていたアイテムというのが、若き日に彼が書いた論文を収めた書籍で、預かっといてと言われて後ろポケットにねじ込んだそれを、室井が見つけて「これ・・」とそちらの話題に自然に入っていく「はず」であった所、どうやらポケットから出して楽屋に置いていたらしく、室井が次の台詞の前に笑いながら渡辺のズボンの後ろポケットをつんつん、とやっていた。それを見て渡辺「ちょっと、本を取って来る」と、あたかもそう決まっていたかのように奥へ引っ込み、本を見せ、会話再開となった。ドラマとしては大失態なのであるが、こんなシーンも笑って見られるだけのお祭り感は「赤信号」ならではである。
この論文は渡辺唯一の出世作で、室井の息子も「ヤバい」と心酔しているのだが、芝居のアイテムとして「論文」というのは珍しい。というか、そこに何が書かれているか内容が問われるものは(例えばかつて天才音楽家と呼ばれた男のその楽曲を披露しにくいのと同じく)扱いが難しい。それはともかく・・この論文は大学の食堂のお姉さんだった若い日の室井との会話から着想された「二人で作った論文」であったが、アカデミーの世界を人生のコースとした彼はそれを自分の著作として世に問い、その疚しさから彼女の元を離れた、というひどい男である。だがよく判る顛末でもある。本作は人情喜劇だがシリアスに描いても行けそうな設定。ただ、教授が自分の「罪」を皆の前で告白するクライマックスの後、判りやすい仲直りの場面はやや微妙であった。