K2 公演情報 滋企画「K2」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    一年以上前からチラシを手にして期待の佐藤滋企画であったが、「K2」というタイトルも深く追求せず、ついに観劇当日蓋を開けてみたら、既存の海外戯曲しかも山を舞台の二人芝居だった。山の中の二人芝居、で思い出すのは大竹野正典『山の声』だが、こちらは実在した登山家の「最後」を題材にしており、戯曲の魅力は「危機」が訪れない道程、日常と地続きの感覚と非日常の絶妙なバランス、台詞の含蓄(文学性とでも)。今作「K2」は遭難から一夜明け奇跡的に命を取り留めたとは言え既に「危機」のさ中にある二人、から始まる。こちらも日常と非日常の感覚の往還はあるが、登山用語が飛び交う「非日常」の緊張感に比重がある。

    ネタバレBOX

    太田宏演じる男が、足を負傷し動けない。佐藤滋演じる男はその事が意味する絶望的な事実の認識を回避し、希望的観測からアプローチする。その「日常性」(佐藤滋本人が醸すものでもある)がこの状況においてはある種の飛躍であるという逆転がある。ザイル、カラビナ、ハーネスといった登山具の僅かな残数で、二人が下山できる可能性と不可能性の会話も、どこかよそ事のような響きで、認知的不協和がもたらす精神的危機に相手を晒さない配慮に満ちている。そうした中、頭を「現実」に切り替え、上の岩壁に残る登山具を「回収」するべく佐藤が出発する。ザイル(ロープ)の一方を太田が持ち、佐藤が進むに従いその分のロープを送って行く。いざという時の命綱を太田が握る格好だ。アゴラ劇場の壁に渡した単管パイプの足場を岩に見立て、佐藤がフックにロープを掛けながら進んで行く。最終的には天井のパイプへと達し、そこで落下する。佐藤は腰紐一本で吊るされ、舞台装置ギリギリで止まる。暫くの静止。体躯を揺らし、太田の居るポケットへ引っ張りこむ。幾つかの道具は回収したが状況は変化ない。太田は佐藤に単独下山を告げる。激しく抵抗する佐藤。君に対する友情、愛が今の自分の全て。その君を置き去りにした自分が生き長らえる事など俺には耐えられない、と言う。太田に自分の家族にある言葉を伝えてほしいと佐藤に頼む。それだけが希望なのだと。佐藤は承諾する。
    演出はやしゃごの主宰(作演出)の伊藤毅。「逃げられなかった」とパンフに述懐しているが、劇作家としての認識しかなかった伊藤氏の演出は(先のロープの場面の工夫と言い)中々見せるものがあった。

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    2023/04/13 06:35

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