少女仮面 公演情報 ゲッコーパレード「少女仮面」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2023/03/16 (木)

    劇場へのカウンターを提示する

     1969年に早稲田小劇場が初演し第15回岸田國士戯曲賞を受賞したこの唐十郎の代表作は、これまで数多の劇団が上演してきた。これまで一軒家での上演を主としてきたゲッコーパレードが本作を演劇の街下北沢の劇場でどのように上演するのか、まずは興味を惹かれた。

    ネタバレBOX

     劇場に入ると舞台下手側と客席の壁を背景に半円状の演技スペースを設け、そこから舞台後方と客席の段差に向け同心円状に椅子を置き新たに客席を設けるという空間設計にまず目を奪われた。いままで見たことがないOFF・OFFシアターの空間の使い方を見ていると、この劇団の劇場に対する姿勢とテント芝居を敢行した唐十郎の姿勢が重なるように思えてきた。

     宝塚歌劇団の伝説的な男役トップスター、春日野八千代に憧れる少女の貝(永濱佑子)は老婆(ナオ フクモト)を伴い春日野が経営する地下喫茶店「肉体」へと向かっている。その頃「肉体」では腹話術師(長順平)が人形(平野光代)を操りながらひとりで対話ごっこをしている。ボーイ(小川哲也)はコーヒーを引っ掛けるなどして腹話術師を軽くあしらい口論になるが、ボーイは腹話術師のことが見えなくなってきている、まるであなたが人形の付属物のようだと主張する。店に入ってきた男(林純平)は喉が乾いているのか、店内の水道の蛇口に口をつけ汚い音を立てて吸い気色が悪い。

     やがて入店した貝と老婆はボーイに春日野への取次を申し出るも断られ、諦めて帰ろうとしたそのとき、奥から春日野八千代を名乗る人物(崎田ゆかり)が出てくる。憧れの人に会えた貝は舞い上がり、『嵐が丘』のキャサリンとヒースクリフになりきって芝居を続ける。しかし春日野は演じていくうちに、自分の肉体はファンによって奪われてしまったと嘆きはじめ、幻想的な存在である自分自身を総括していく。終幕では春日野が慕う甘粕大尉(佐藤冴太郎)が春日野のファンの少女たちを連れて登場するが、彼女たちが春日野に返したいと差し出したものが、春日野をさらなる狂気の世界へと突き落とす。

     伝説的な作品をテキレジせずほぼそのままの形で上演することで、古典としてのアングラ演劇の魅力を堪能できたのはよい機会であった。俳優の熱量や大仰な動作が劇場のサイズとフィットしているのかはやや疑問ではあったが、戯曲の言葉の強度とは合っていると感じた。小川哲也らボーイたちが見せるアンサンブルの妙、林純平の水飲み男が醸し出す退廃的な味わい、そして春日野八千代を演じた崎田ゆかりの狂気の世界に陥る芝居が特に印象的である。

     ただ今となってはやや時代がかって聞こえるセリフや古い固有名詞に対する註釈がないため、偉大な作品を上演するという以上に現代的な意義が感じられなかった点は気になった。劇場での上演に問いを投げかけるこの劇団が、演劇における肉体論がテーマであるところの本作へ新たな解釈を提示してほしかったと思う。

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    2023/04/12 17:57

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