DADA 公演情報 幻灯劇場「DADA」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2023/03/04 (土)

    幽霊たちが奏でるコミカルな音楽劇

     劇団のアンサンブルと若い才能が光る2017年初演の三演である。

    ネタバレBOX

     ケン(本城祐哉)とラジョ(布目慶太)は京都駅にある架空の地下鉄、清水線12番出口のコインロッカーに18年前に捨てられた。ふたりはじつの兄弟のように肩を寄せ合い育ってきた。

     駅にはさまざまな理由で現世を去らねばならなかった幽霊たちが行き交い、役人の成仏唯(橘カレン)や、体を売ろうとしているサナエ(鳩川七海)ら人間たちも出入りしている。生前の後悔を晴らせない幽霊たちは成仏することを目指しているのだが、成仏できない幽霊は記憶が薄れてきたり、人間の体を乗っ取ろうとすると魂が消滅してしまうため成仏できないという。ラジョは自分を知るマリ(松本真依)という女性に啓発され、最近記憶が薄れはじめているケンを助けるべく奮闘するが、やがて逃れられない現実に向き合うことになる。

     私が面白いと感じたのは歌唱場面の多彩さである。冒頭で演奏される「京都駅地下鉄清水線」では幽霊たちが傘を差しながら舞台上で「叶わぬ願い 描くほどに/ありえぬ未来 望むほどに」とこの世の無情を歌い、さながら寺山修司の天井桟敷の舞台を見るような感触がした。続いてケンが幽霊たちに「あぁ、成仏せよ」と激しく歌い上げるタイトルチューン「DADA」はロック調、ラジョと因縁のあるマリがトイレで歌う「水はことば」での鮮やかなトイレットペーパーの工夫、終盤でラジョの旅立ちを見守るように再度歌われる「DADA」はミュージカル『RENT』の「No Day But Today」のような爽快感がするなど、幅広い楽曲が聴けて飽きることがなかった。ケンを演じた振付・作曲の本城祐哉の才気が横溢していたし、劇団員のアンサンブルがよく取れていたことも成功の一因だろう。

     私が疑問に感じたのは主に芝居部分の作劇と演出である。開演前に「ゴーストバスターズ」や「お化けのロック」が流れていたこともからも予想できたが、本作の幽霊たちは皆コミカルでまったく怖くない。それはいいのだが、幽霊と人間との差別化ができていたとは言い難いため、彼岸と此岸のあわいを描く設定があまり活きず、クライマックスになってようやく効いてきたために歯がゆい思いがした。そして作中ではキャラクターたちが会話の多くが、本作における幽霊の世界観の説明に費やされていた。そのため物語に入り込む以前に設定に馴染むのに時間がかかってしまった。幽霊が日光に当たると体の一部が大根になってしまうというような場面は面白かったしキャラクターたちは皆チャーミングだが、こうしたコミカルな作劇が照明や音響のどっしりとした感覚とあまり調和しているようにも思えなかった。

     また冒頭の場面からおおよその結末は読めるため、ラストの感動が今ひとつ盛り上がらなかったことも残念である。たしかに作中で幽霊と人間は一種の疑似家族を形成していたが、それが従来の家族像へ問いを投げかけるまでに至ってはいないように思う。ラジョとマリの対話や、人間の体を乗っ取ってまで亡くなった娘のあやめ(今井春菜)に会おうとしたホームレスの幽霊サンショウウオ(藤井颯太郎)の想いなどを通し、子どもを置き去りにすることの暴力性とその背景、親子の未練といった要素を感じたいと思った。

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    2023/04/12 17:34

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