あげとーふ 公演情報 無名劇団「あげとーふ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2023/03/18 (土)

    同級生たちの会話から浮かび上がる普遍性

     2008年の高校演劇の大会で準優勝に輝き、第19回テアトロ新人戯曲賞佳作にも選ばれた作品が、15年の時を経て再演された。

    ネタバレBOX

     舞台はアメリカのアリゾナ州。卒業旅行でアメリカ横断の最中である5名の男子高校生は、タイちゃん(粂野泰祐)が発した「あげとーふ(I get off)」の一言で移動中の馬車を降り、そこから5マイルも歩いた先のグランドキャニオン駅にたどり着く。留学経験があり日本で留学生を口説いたこともあるマセたシュート(西ノ原充人)が鉄道会社に電話して確認したところ、つぎに電車が来るまで12時間もかかるという。観光シーズンのため周辺のログキャビンはふさがっており、彼らは一晩駅で過ごさねばならなくなってしまった。

     列車を待つまでの長い時間、ぶっちゃけ話や将来の夢を語り合い盛り上がる5人の会話から、それぞれの人物像が浮かび上がってくる。自分専用の車を持ち免税店でブランド物を土産に買ってこいと家族に請われているリョー(佐伯龍)は一番の金持ちのようだ。景色のきれいなグランドキャニオンに行きたがっている成績優秀なタクトゥ(松田拓士)は、家庭の事情からか達観しすぎた言動でタイちゃんを心配させている。彼らを心配し差し入れを持って現れた現地人のコーディー(太田雄介)に、カン(泉侃生)は自分の進路が絶たれた苦悩を打ち明ける。ネイティブ・アメリカンの精霊(天知翔太)が見守るなか、彼らはやがて内面に隠していた激情をぶつけ合うことになる。

     同級生間の階級格差や家庭問題、エスニックマイノリティやアイデンティティの問題がさらりと書き込まれた本作は、15年前の作品とは思えないほどの新鮮さと切実さを我々につきつける。『テアトロ』2008年8月号掲載の過去の台本と比較すると、時事ネタやギャグが書き換えられていたことに加え、コーディーに該当する人物がおそらく女性の設定で登場人物がナンパしようとしたエピソードがあった。さらに他の登場人物の淡い恋愛話も盛り込まれていた。今回のテキレジによって思春期から青年期へ移行する男性の葛藤や、他者を思いやることの難しさと尊さという作品のメッセージはそのままに、高校生たち5名の初心さが際立ちホモソーシャルの結びつきが強まったように感じられた。彼氏に四股をかけられた女性たちの結託をコミカルに描く同時上演『4人のアケミ』と対比のとれた二本立て興行になったと思う。

     俳優たちは熱演でありエネルギー過剰な役者ぶりが戯曲の求めるアツさに合致していた。20名程度しか入れない小空間で行なうには大仰で空回りしている箇所もなくはなかったが、客席全体でこの芝居を、そして劇団を応援していこうというアットホームな雰囲気は忘れがたい。開演前の島原夏海(劇団代表・脚色・演出)による、コロナ禍を経ても活動を継続していきたい若手中心の公演であるというアナウンスと相まって、地域に根ざした演劇の展望について思いを馳せる貴重な機会となった。

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    2023/04/12 17:00

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  • 遠方から足をお運びいただき、また詳細なご感想を賜りまして、ほんとうにありがとうございます。
    私達のこの公演で成し遂げたい目標を汲み取ってくださいましたこと、大変嬉しく思います。
    引き続き、精進してまいります。

    2023/04/15 13:44

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