実演鑑賞
満足度★★★★
「赤紙(臨時召集令状)」配達人を通して描いた静かな反戦劇。銃撃・爆撃が見え聞こえるわけではないが、人の心に怖いと思わせる「紙」と「言葉」がある。勿論「赤紙」と「おめでとうございます」である。
物語は赤紙を配達する主人公・田中の目を通して戦争とは を考える。彼は「赤紙」だけではなく「戦死公報」も配達するなど心労ある役目(仕事)を務めている。村人からの怯える視線と任務の狭間に苦悩しており、夢か現か幻か判然としない日々を過ごす。村から次々に送り出される若者(病弱者も含め)が非業の最期を迎えるが、自分は…。しかし、いつしか心の痛<悲し>みという感覚がマヒして何とも思わなくなる。戦争という状況<環境>が、正常な精神 感覚でいられなくなる怖さ。
公演は 国家的な観点ではなく、庶<臣>民の感覚に近い描き方だけに 一層反戦への説得力を持つ。例えば田畑仕事をしている小高一家…父親は田中に向かって、三人兄弟のうち長男・次男は戦死、三男には赤紙を配達しないでほしいと土下座して哀願する。働き手がいなくなり、困窮するのは明らかである。しかし田中は ただ配達するだけで 自分には如何することも出来ない。
出征する当人、赤紙 が配達されて喜ぶ者、さらに志願する者の気持、一方 夫を送り出した妻の気持は、一様ではない。その夫々について丁寧に描く。
役者陣…藤一色の劇団員(3人)は1人1役、客演(4人)は複数役を担っているが、バランスもよく静かな中にも芯ある演技を行っている。赤紙を配達するため家々を訪問する、それを簡易な玄関移動で表現する。簡素な舞台美術を巧く使い、強い思いを窓から見える松(異称:時見草)に込める、その比喩が印象的である。
(上演時間1時間20分 途中休憩なし)