グッドラック、ハリウッド 公演情報 加藤健一事務所「グッドラック、ハリウッド」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ボビー(加藤健一)が最近の映画をけなし、社長やプロデューサーを「何もわかってない」とののしる理由はあいまいだ。だから、観客はそれぞれの映画観を投影してみることができる。最近の映画だっていいじゃないかという人は、やはりボビーは古いのね、で済ませられる。おかげで時代に縛られない開かれた芝居になっている。

    最近のヒップな映画のシーンとして、若いデニス(関口アナン)がこんな例を言う。男女三人で入ったラブホテルで、ベッドが壊れて三人が跳ね上げられて、すごい音がつづく。それを隣の老夫婦が聞いて目を丸くする(ものすごい絡み合いを想像して)。僕は聞いてて、おかしかった。しかしボビーは「そんなの昔からあるドタバタギャグだ。愚かしいだけ。新しくも何もない」と歯牙にもかけない。こんなところに、ボビーのかたくなさが感じられる。

    もしボビーが「今はSFXばかりで、偽物だ」とか。「昔は〇〇だった」とか、具体的なセリフが多くなれば、現代ハリウッド批判になってしまい、それに同意する人はいいが、同意しない人は反論がたまっていくだろう。ただ後半で「映画くらい愛と癒しがあっていいじゃないか。なぜ破壊と憎しみばかりなんだ」というのは、一つの映画の理想像として中心軸になった。(ただ今の映画も愛と癒しはあるのが多いと思うけど)

    前半は知らない俳優、知らない映画の名前が多く出てくる。ボビーのポーカーフェースの強引ぶりばかりで、デニス役の関口アナンのうろたえぶりやリアクションも大げさに感じられて、のれなかった。たまに助手の加藤忍が出てくると、ほっとして心が和んだ。

    ネタバレBOX

    出来上がった映画を見て、ボビーはデニスが勝手に作り替えていたことを知ってショックを受ける(ちょっとナイーブすぎるといえるけど)。例えばと、旧友に電話で語るのはこんな改変。家出した夫と、妻が再開するシーン、夫「元気そうだな」妻「あんたがいない暮らしを5年もすれば元気になるわ」が改変版。もとは夫「元気そうだな」妻「ええ。あなたも」夫「ああ」妻「元気でなければ良かったのに」。つまり、夫のために生きる女から、自分のために生きる女に変えられていて、それをボビーは「台無しだ」とわめいているのだ。作者は「手作り」を愛する人だそうで、SFXばやりの現代映画には批判的らしい。しかし、戯曲では、現代の良さもきちんと書いている。この公平さは大したものだ。

    デニスが「僕があんたの操り人形と思っていたんだろう。おあいにく様、僕はそんな人間じゃないんだ」と、指南役のボビーへの態度をがらりと変える場面はスリリングで良かった。

    失意のボビーは、もう自分の時代が終わったことを本当に悟る。デニスに「おめでとう。これからは君の時代だ」と祝福し、助手(飛車ではない)のメアリー(加藤忍)とパリへ旅行することを決意する。デニスに「さよなら、あとはよろしく」と映画の題名と同じセリフを遺して。胸にしみる新旧世代の交代劇だった。

    最後、舞台中央にぶら下がっていた首吊り用のロープに、もう一度ボビーが机に載って、首の前で持つ。たまたま入ってきたデニスが「やめてください」と驚くのに、ボビーはロープの首の輪をナイフで切り取る。「コメディの秘訣は意外性だよ」。この真似に2,3度出たセリフを最後のきめに使うのも、かっこいい。

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    2023/04/06 10:40

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