実演鑑賞
満足度★★★★★
配信で鑑賞。
タイトルがいつもの謎掛けのような文字列でなく、ストレート。加えて今回は配信を実施するとあり、どことなく「特別回」の公演だな、と読み取った。ネットのサイトの有料動画が、「テーマの普遍性・緊急性に鑑み」無料公開される事があるが、それに近いものか。。
入管問題に踏み込んだ芝居であり、その大部分は入管で亡くなったスリランカ人ウィシュマ氏の「死」に至る経過を辿ったものと言って良い。入管職員の理不尽な対応と「何も説明できてなさ」のこれ以上無い解説に芝居はなっていて、身も蓋も無い現実を露わにし、観客に突きつける。後は観客それぞれがこの現実を受けて何をするか、である。
物語上の「救い」は芝居の中には無い。しかし明白な「誤り」が存在し、今なお改められずに放任されている「事実」が共有される事自体は(つまりこの上演が実現した事は)希望であり救いである。
今作の特徴は、入管側の人物を思い切って舞台上に上げたこと。入管に勤める人間の中にも良心がある、という配慮もした上で、結局「収容し続けていること」の根拠が薄弱である現実を冷徹に描いたものと私は評価した。
「敵」を軽く見せてもいないし、ことさらに「悪」に仕立てて溜飲を下げてもいない。この芝居のような現場で、上司に「抗う」人間は、多分いない。だが水面下ではどうか・・。その水面下の感情が表面化していたらウィシュマさんはどうなったか(助かったのではないか)・・その「願い」が表面化した部分がフィクションである。人を死なせてはしまったがその事実から何かを改めねばならないと考える人間が内部から出て来れば、昨日とは違う入管の姿を明日目にする事ができるかも知れない・・。
長谷川景演じる職員の心中の苦悶と、最後に上司に対して取った言動は、私たちが非道な入管に対峙して夢想の中で思い描いたものでもある。
実際の入管はもっと殺伐としてドライでああいう場面は実際には生じない。上からの指令か外圧でしか組織の変容は起きない。従って私たちが何をするか、である。