挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~ 公演情報 文学座「挿話エピソオド~A Tropical Fantasy~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    日本軍の虐殺行為と加害についての「懺悔と贖罪」を、どこか牧歌的幻想的に描いた異色作である。南方のある島に派遣された12人の日本兵の、敗戦の日の出来事を描く。島民と仲良くなった小島上等兵(小石川桃子)らと違い、師団長(清水明彦)や参謀長(中村彰男)は島民を警戒している。みんな出払って一人兵舎(?)に残った師団長のもとに、自分が殺したはずの島民たち(横山祥二ほか)が現れる。亡霊たちに「赦してくれ」と泣いて詫びる師団長…

    原爆や戦地での飢餓体験など、被害を描く作品は多いが、加害を語るものは少ない。こんな作品が埋もれているとは知らなかった。今まさに見る価値のある舞台である。島民と仲良くなった温和な兵士を女性が演じていた。ぎすぎすした感じがなく、柔和で、師団長に対しても男性同士の上下関係とは離れた、子供をあやすような態度を見せる。師団長のとがった心をほぐしていく過程が見もの。若い女性が演じることが思いがけない効果を生んでいた。

    ネタバレBOX

    師団長は日本に帰らず「懺悔と贖罪」のため島に残り、島民と同じように暮らすという。奇しくも(というべきか)戦場で気まぐれで中国人老夫婦を殺した武田泰淳「審判」の青年と同じ選択である。参謀長は住民虐殺の容疑でオランダ軍によって連行され、行方不明と。戦犯裁判が生々しい出来事としてまだ意識されているころの作品だ。

    加藤道夫の戦後復員後の最初の作品だという。語り手の通訳に「私は唯、此の信じられない様な現代のお伽噺を、忘れぬうちにどうしても皆様の前で一度語ってお聞かせしないではいられなかったのです」と言わせている。加藤道夫も南洋で住民虐殺を目撃したのだろうか。自分が行ったということはないと思うけれど……。

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    2023/03/21 21:29

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