実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/21 (火) 14:00
座席1階
三崎亜記の小説の舞台化。東京演劇アンサンブルがなぜこの作品の舞台化を思い立ったのか、それにも興味がある。この作品はブレヒト劇を追求してきた劇団のイメージとは程遠いが、物語も演出も役者も「見てよかった」と思える秀作に仕上がっている。
小学六年生役の永野愛理がすばらしい。見ているうちに本当に小学生じゃないかと思えてくるほどの振る舞いだった。もちろん、せりふは小学生っぽくはないのだが、役に徹するとはこのことかと思えるほどのなりきりぶりだ。この舞台の成功の大きな要因であり、見事だと思う。
物語はこの小学六年生・麻美が、海に近い田舎町にある「若草荘」という共同住宅を訪れるところから始まる。麻美の母は家出同然で若草荘に来て、マネキンと暮らしている。他の住人たちも幼児だったり、若い女性だったりのマネキンと暮らしているのだ。麻美は父親の携帯を盗み見てこの場所を突き止めるが、母が浮気をしているのではないかと疑って家を飛び出してくる。だが、若草荘に来て母や住人たちの生活を見て、夏休みでもありしばらくここに滞在することを決める。
ご近所は「マネキンハウス」と呼んで気味悪がっているのだが、なぜ、住人たちがマネキンと暮らしているのかは物語が進むうちに明らかになってくる。ただ、麻美の母が一緒に暮らす若い男性のマネキンについては、結局正体は分からずじまい。客席としては消化不良感が残るところだ。
しかし、「メメント・モリ」の空気感が流れる中で麻美の視点で語られる物語はすんなりと胸に入ってくる。原作の力であると思うのだが、これをシンプルな舞台設定で描き出した演出も見事だと思う。
本日が千秋楽。とてもいい舞台だった。東京演劇アンサンブルのまた、違った魅力を発見できてよかった。